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「…え、ちょっと待って下さい…。それじゃあ、二日、…いいえ、三日でこの書類を仕上げたって事ですか…?」
社はあり得ないと顔を真っ青に染める。
書記をしている蘭ですら、このレベルになど到底敵わない。
もうスタート地点が違うのだ。
蘭は無口で人と話すのをあまりしないが、昔から文字を書く事や、活字を見るのが好きだった。
そんな彼でさえ、この量の書類をたった数日でこなせるかと言われたら、答えはノーだ。
「そうや、参ったわぁ。こない恐ろしい化物がおるなんてなぁ」
飛鳥は至って冷静だが、心中穏やかではない。
咲雨を越える天才がいるかもしれない、その事に納得などしたくなかった。
どんな奴なのか、興味と言うよりも執着のような感情が生まれる。
「こんな逸材を風紀に獲られたのか…、悔しいな。…だが、仕事ははかどる」
咲雨は何度も書類に目を通すも、ミスや問題点など一つも見つからない。
それ所か、完璧なのだ。
そんな咲雨を見て、表情こそは変えないが飛鳥は舌打ちしたい気分にかられる。
今まで何かに興味は持っても、そこまで突き止めるような行動にまで行かなかった幼馴染みの様子に、飛鳥の瞳がうっすらと開く。
それは仄暗い光を放っていたのだった。
自分のテリトリーに他者を入れるなどしなかった咲雨が、まさに目を輝かし、興奮しているのだ。
「生徒会に欲しい…。今からでも口説けないか、やってみる価値はあるかもな」
咲雨がぼそりと呟いたと共に、生徒会室のドアがノックされた。
「犬神です、新しい書類を持って来ました」
その声に、いち早く反応したのは咲雨だった。
いつもなら、飛鳥か蘭がドアのロックを解除するのたが、いてもたってもいられなくなったのか足早に永久を室内へ通す。
「おや?桜花くん自ら開けてくれるなんて、珍しい事もあるんですね」
驚いた様子もなく、クスクスと永久は笑う。
「…ああ、まぁ、入れよ」
咲雨は内心舌打ちをした。
永久が何でも見通しているとばかりに、自分を見ているからだ。
「ありがとうございます」
そう言って生徒会室に入ると、いつもはそのまま会長の机の前で要点だけ伝えて帰るのだが、ソファーへ促された。
「風紀になって少し経ちますが、ここに案内されるのは初めてですね」
さも自然とばかりに座った癖に、何をぬけぬけと言っているんだ、とその場の全員が思った。
永久は本当に底が知れない。
飛鳥同様に何を考えてるか、何を思ってるかなど絶対に見せないし、感じとらせないのだ。
「もう、お前ならわかってんだろ。新しく入った風紀、…誰なんだよ」
咲雨が永久の目の前のソファーに座り、逃がさないとばかりに詰め寄る。
「おや?掲示板、見ませんでしたか?」
永久は首を傾げ、わざとらしく不思議そうな顔をする。
「掲示板って…。本館入らなきゃ見れねぇだろうが。俺達は朝から晩までここにしか居ないんだから、無理に決まってるじゃねぇか」
咲雨が溜め息を吐くと、永久がそれもそうですね、などと微笑んだ。
「的井くんですよ」
「それは知ってる、理事長から直接聞いたからな」
永久はニコニコと笑みを崩さず、知ってましたか、と答えた。
「そうじゃない、…この書類を作っている天才は誰だって聞いてんだ」
早く言えとばかりに、咲雨の脚が貧乏揺すりを始める。
それを視界に捉えても尚、永久は平然とした態度を崩さない。
「おや、バレてしまいましたか?もっと時間稼ぎ出来ると思ってたんですがね」
永久が面白そうにクスクスと笑った。
「それは昨日、ようやく落とした秘蔵っ子です。それに風紀を決めるのは僕なので、わかってる、ではなく、僕が決めた、んですよ」
その言葉に、咲雨だけではなく、ほかのメンバーも驚愕した。
「は……?昨日?ちょっと待てよ…!…この大量の書類は入学式から作られたもんじゃねぇのか?しかも、犬神が決めたってなんだよ?」
咲雨があり得ないとばかりに、永久を見つめる。
「ええ、そうですね。今朝の、この強姦未遂の事件の後から風紀室にこもり、彼が作ってくれたものです。それに桜花くんならご存知ですよね。去年の風紀が大変な騒動となった事を。学園側から、僕の好きにして良いと言われたので、メンバーは僕が決めた以外は受け付けません」
その言葉に、咲雨だけではなく、他のメンバーも驚いていた。
「S組だけが優秀だなんて戯れ言、僕は信じませんし、決めつけは良くないと思いませんか?現に去年のS組トップの面々がろくに風紀も出来ずに卒業しましたよね。僕は常に思うんですよ。あの日あの時、風紀委員長になってから、S組以外の人間でも立派に学園を動かせるんだと言う事を」
2024.09.03
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