3
永久の言っている事には説明のつく事が多々あった。
そして彼はそれを実現している。
だから誰も、その言葉に対して意見を述べる者は存在しなかった。
「少し熱く語り過ぎましたかね?本来の目的はこれです」
そう言って、一枚の報告書を提出した。
それに皆の視線が注目していく。
「先程の書類には作成者の名前記入欄がなく、今までも必要ないと思ってたんですが、この書類から新たに作ってくれたので、良かったら活用して下さい」
永久の言葉を聞き、咲雨は直ぐ様その書類を手に取る。
「……本郷結愛…?」
はっと咲雨の表情が変わった。
そして飛鳥は彼の背後に周り、その名前を目にする。
「あの可愛い仔犬ちゃんやなんて、意外やわぁ」
そう微笑んでいるが、飛鳥の瞳は鋭く光っていた。
滅多に開かない目を開けていたが、それに気づく者はいなかったのだ。
向かいに座る永久以外は。
「犬神、この本郷って、外部生のあの本郷で合っているのか?」
「はい、彼で合ってますよ」
咲雨は絶句したのだ。
あの平凡で、何の取り柄もなさそうな結愛がこれを作ったのかと。
その様子を飛鳥は無表情で見つめていた。
「僕も教師からは聞いてましたが、本当に天才としか言い様がないですよね」
本当に侮れないとは、目の前の男の事を言うんだろうな、と咲雨は思う。
既に入学前から目をつけていたなど、自分では永久のように結愛の才能を見つけられなかっただろうと。
その時点で既に遅れをとっていたのだ。
それが悔しくて堪らなかった。
そんな咲雨の心情を知ってか、飛鳥は彼の頭を優しく撫でる。
「咲ちゃん、仮にもし結愛ちゃんの才能を見つけたとしても、Sやないと生徒会には入れられへんよ。どないしても風紀に入る運命やったんや」
良い子、良い子するように慰めた。
それで我に返ったのか、冷静にそうだな、と微笑んだ。
「永久ちゃんは変態やねん、だから結愛ちゃんへのセンサー入ってんのや。咲ちゃんは努力の人やから、何も悔しがる必要ないんよ」
誰もが見とれる笑顔で物凄い言葉を言っているが、飛鳥の性格を熟知している面々はスルーした。
咲雨だけが、それに気づかずに再びお礼を言ったのだ。
「おやおや、変態とは酷い言われようですね。大友くんも大概ですが、ねぇ?」
永久も一歩も引かず、誰もが惹き付けられる笑顔で反撃。
「自分、ポヤポヤした顔でよう言うんやね。ホンマ、ビックリやわぁ」
飛鳥が笑顔を張り付け、意地悪そうに口角を上げる。
「いえいえ、大友くの仮面のような顔には僕ですら真似出来ませんよ」
永久がニコニコと穏やかに微笑むも、目が笑ってない。
一気に生徒会室の温度が下がり、寒気すらする。
「永久ちゃんこそ、裏で何しとるかわかったもんやないねん」
「ふふっ、褒めてますか?ありがとうございます」
永久が頭を下げると、飛鳥も同様に下げた。
「どう致しましてや。お礼なん、必要ないんや」
そんな二人の攻防戦を社と蘭は遠目で見つめた。
「……同族嫌悪」
蘭がぼそりと呟くと、社がこくりと頷いた。
「二人とも、本当に似てますからね。…私は一切関わりたくないですが…」
社の背筋に悪寒が走る。
毎回、この二人は会えば言い合いをする。
しかもお互いに一度だって声を荒げる事なく、喧嘩だってした事もない。
「本郷くんは待機組と事務専門なので、制裁や暴力などの類いは全部、僕か御子神くんに一番に報告して下さいね。連絡とらなかったら、小林くんでも構いません」
咲雨に、自分とほとり、そして千尋の電話番号を書いたメモを渡す。
「こちらを登録しておいて下さい。くれぐれも個人情報なので、他へは漏らさないようにして頂けると幸いです」
「ああ、大丈夫だ。俺達の番号も伝えておこう」
そう言って、生徒会メンバーの番号を登録してもらったのだった。
「それと本郷くんは風紀に必要な人なので、苛めたり、傷つけたり、ましてや好きになどなって迫らないで下さいね」
そう微笑んで、生徒会を後にしたのだ。
「結愛ちゃんは可愛えから、苛めなんてせぇへんやよな?」
飛鳥の言葉に、社が反撃する。
「あんな平凡、眼中にありませんし、ましてや、あなたの言う可愛いってわかりませんが…」
睨み付けるように言えば、怖い、怖い、と飛鳥がわざとらしく咲雨の後ろに隠れた。
身長が飛鳥の方が高い為、隠れてもいないのだが。
「あの才能には惹かれるが、な」
咲雨は少しだけ残念そうに呟いた。
「咲ちゃんの浮気もん。俺がおるんやから、よそ見しちゃアカン」
背後から咲雨の首に抱きつき、頭をぐりぐりと押し付けた。
「浮気も何も、俺達はそもそも付き合ってない」
呆れたように、その腕をどかした。
「酷い、うちの事は遊びやったなんて…。孫の代まで呪ったるわぁ」
飛鳥の小芝居が始まり、それにしばし咲雨が付き合うのだった。
平凡だと侮ってはいけません。
2024.09.03
- 54 -
*前次#
ページ:
今日:25 昨日:32 合計:26817