tori


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永久の言っている事には説明のつく事が多々あった。
そして彼はそれを実現している。
だから誰も、その言葉に対して意見を述べる者は存在しなかった。

「少し熱く語り過ぎましたかね?本来の目的はこれです」

そう言って、一枚の報告書を提出した。
それに皆の視線が注目していく。

「先程の書類には作成者の名前記入欄がなく、今までも必要ないと思ってたんですが、この書類から新たに作ってくれたので、良かったら活用して下さい」

永久の言葉を聞き、咲雨は直ぐ様その書類を手に取る。

「……本郷結愛…?」

はっと咲雨の表情が変わった。
そして飛鳥は彼の背後に周り、その名前を目にする。

「あの可愛い仔犬ちゃんやなんて、意外やわぁ」

そう微笑んでいるが、飛鳥の瞳は鋭く光っていた。
滅多に開かない目を開けていたが、それに気づく者はいなかったのだ。
向かいに座る永久以外は。

「犬神、この本郷って、外部生のあの本郷で合っているのか?」
「はい、彼で合ってますよ」

咲雨は絶句したのだ。
あの平凡で、何の取り柄もなさそうな結愛がこれを作ったのかと。
その様子を飛鳥は無表情で見つめていた。

「僕も教師からは聞いてましたが、本当に天才としか言い様がないですよね」

本当に侮れないとは、目の前の男の事を言うんだろうな、と咲雨は思う。
既に入学前から目をつけていたなど、自分では永久のように結愛の才能を見つけられなかっただろうと。
その時点で既に遅れをとっていたのだ。
それが悔しくて堪らなかった。
そんな咲雨の心情を知ってか、飛鳥は彼の頭を優しく撫でる。

「咲ちゃん、仮にもし結愛ちゃんの才能を見つけたとしても、Sやないと生徒会には入れられへんよ。どないしても風紀に入る運命やったんや」

良い子、良い子するように慰めた。
それで我に返ったのか、冷静にそうだな、と微笑んだ。

「永久ちゃんは変態やねん、だから結愛ちゃんへのセンサー入ってんのや。咲ちゃんは努力の人やから、何も悔しがる必要ないんよ」

誰もが見とれる笑顔で物凄い言葉を言っているが、飛鳥の性格を熟知している面々はスルーした。
咲雨だけが、それに気づかずに再びお礼を言ったのだ。

「おやおや、変態とは酷い言われようですね。大友くんも大概ですが、ねぇ?」

永久も一歩も引かず、誰もが惹き付けられる笑顔で反撃。

「自分、ポヤポヤした顔でよう言うんやね。ホンマ、ビックリやわぁ」

飛鳥が笑顔を張り付け、意地悪そうに口角を上げる。

「いえいえ、大友くの仮面のような顔には僕ですら真似出来ませんよ」

永久がニコニコと穏やかに微笑むも、目が笑ってない。
一気に生徒会室の温度が下がり、寒気すらする。

「永久ちゃんこそ、裏で何しとるかわかったもんやないねん」
「ふふっ、褒めてますか?ありがとうございます」

永久が頭を下げると、飛鳥も同様に下げた。

「どう致しましてや。お礼なん、必要ないんや」

そんな二人の攻防戦を社と蘭は遠目で見つめた。

「……同族嫌悪」

蘭がぼそりと呟くと、社がこくりと頷いた。

「二人とも、本当に似てますからね。…私は一切関わりたくないですが…」

社の背筋に悪寒が走る。
毎回、この二人は会えば言い合いをする。
しかもお互いに一度だって声を荒げる事なく、喧嘩だってした事もない。

「本郷くんは待機組と事務専門なので、制裁や暴力などの類いは全部、僕か御子神くんに一番に報告して下さいね。連絡とらなかったら、小林くんでも構いません」

咲雨に、自分とほとり、そして千尋の電話番号を書いたメモを渡す。

「こちらを登録しておいて下さい。くれぐれも個人情報なので、他へは漏らさないようにして頂けると幸いです」
「ああ、大丈夫だ。俺達の番号も伝えておこう」

そう言って、生徒会メンバーの番号を登録してもらったのだった。

「それと本郷くんは風紀に必要な人なので、苛めたり、傷つけたり、ましてや好きになどなって迫らないで下さいね」

そう微笑んで、生徒会を後にしたのだ。

「結愛ちゃんは可愛えから、苛めなんてせぇへんやよな?」

飛鳥の言葉に、社が反撃する。

「あんな平凡、眼中にありませんし、ましてや、あなたの言う可愛いってわかりませんが…」

睨み付けるように言えば、怖い、怖い、と飛鳥がわざとらしく咲雨の後ろに隠れた。
身長が飛鳥の方が高い為、隠れてもいないのだが。

「あの才能には惹かれるが、な」

咲雨は少しだけ残念そうに呟いた。

「咲ちゃんの浮気もん。俺がおるんやから、よそ見しちゃアカン」

背後から咲雨の首に抱きつき、頭をぐりぐりと押し付けた。

「浮気も何も、俺達はそもそも付き合ってない」

呆れたように、その腕をどかした。

「酷い、うちの事は遊びやったなんて…。孫の代まで呪ったるわぁ」

飛鳥の小芝居が始まり、それにしばし咲雨が付き合うのだった。


平凡だと侮ってはいけません。


2024.09.03

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