tori


非王道


本日は日曜の為、結愛は最新式のノートパソコンを買いに行こうと部屋を出た。
学園内にはコンビニやスーパーなどの食料品や日常用品はあるが、電化製品や家具類、洋服や娯楽の為のお店は完備されておらず。
その為、それらが必要な場合は自分で買いに行くか、ネットショッピングなどを利用しなければならない。
結愛は自分の職業柄、お店へ出向いて買うのを好み、自らで操作した上でどれにするか決める主義である。
仕事が忙しく、旧式モデルのパソコンをずっと使用していた。
お金もトリップ特典につき必要な分だけ、上限なく振り込まれるシステムらしく、無駄遣いはしないがパソコンだけは欲しい。
やけに騒がしいなと思い、結愛は学園の出入口へ向かう。
犬の鳴き声がし、首を傾げる。

「お〜い、そこの人〜」

正門が見えたと思ったら、突然どこからともなく声が聞こえて来る。

「え、…は?」

結愛は辺りを見回すも誰もいない。
ただドーベルマンの犬達がしきりに吠えていた。

「いやいや、こっちこっち。上だって」

そう言われて真上を向けば、高い正門の上に一人の男がよじ登っていた。

「え、猿……!?」

結愛が目を細め、その人物を見つめる。

「ぶはっ!!お前、面白いなぁ!格好良いとか、綺麗とか言われた事あるけど、猿はねぇわ」

そう言って、金髪の男は腹を抱えて笑った。
その間も興奮した犬達が吠え続けている。

「インターフォン鳴らしても誰も出ねぇから、頑張って登ったら、こいつらがいて降りられねぇんだよ。どうにかしてくれねぇ?」

(普通、インターフォン鳴らして、誰も来ないからって、正門を登るか!?いや、ないな…。マジで何なんだよ、こいつ。)

「お〜い、聞いてるか?」
「あ…、あぁ、聞いてる。今日は守衛の人がいないから、ちょっと管理人に電話してみる」

そう言って、結愛がスマホを操作して電話をかけた。

「その手があったか。思い付かなかったわ」
「……だよねぇ」

結愛が目を細めて、男を見上げた。

「悪い悪い、怒るなって」

悪びれもせず、男は笑っていた。
臨時の管理人が出て、今の状況を細かく伝える。
電話口では大層驚いた声が聞こえ、結愛も苦笑いするしかなかった。

「今から来てくれるから、とりあえずそこから降りれるか?」
「余裕、余裕」

そう言って、男はこちら側に降りようとする。

「あ、ちょ…、違うって!!こっち降りたら、犬達に噛まれるぞっ!?」
「あ〜っ、そうだった!!!」

そう男が頭を抱えた瞬間、掴むものがなくなった手は柵から離れ、重力と共に落ちて来た。
犬達は落ちて来るものに驚きに、一斉に逃げ出す。
そして案の定、真下にいた結愛目掛けて男が落下したのだった。

「うおっ!?」
「危ないっ!!」

上から男の慌てた声、その次が結愛の相手を助けようとする声だ。
今、避けたら確実に男は頭を打ってただでは済まないだろう。
結愛は咄嗟に判断し、両手を広げ、男を庇うように抱き締めた。
ドスンと大きな音と共に、結愛の体に痛みが走る。
予想していただけに、声をあげずにすんだのが幸いだろう。
そして当然ながら男の下敷きになって、結愛が頭と背中を強打したのだった。

「痛ぇ……、って、うわっ!?…わ、悪いっ!」 

男は慌てて起き上がる。
その真下では結愛が仰向けに転がり、軽い目眩を起こしていた。
痛みから、その目に涙を溜めている。

「大丈……ぶ……、か……?」

男が目を大きく見開き、結愛を真上から見下ろし、固まる。
その距離は唇がくっつきそうな近さだったからだ。

「ん…、怪我…してない…、か?」

まだ痛みに目を開けられずにいる結愛は、男が無事かどうかもわからない。
だから確認するように、声をかけた。
だが、返答がない事に疑問を感じながらも、脳震盪なのだろうか。
頭がクラクラして動く事すら出来ない。
そして当然だが、目の前の男が結愛を見て、息を飲んでいた事に気づかなかったのだ。
門の上から声をかけた時は平凡だとしか思わなかった少年が、目に涙を溜め、顔を歪ませる姿は何とも艶めかしいものがあった。
男は瞬きする事を忘れ、結愛を凝視。
しかも自分が落ちて怪我をしないよう、咄嗟に庇ってくれ、尚且つ痛いはずなのにこちらの心配をしているのだ。
むしろ怪我をしたのは結愛な筈で、巻き込まれて悪態をついても良いのに、それでも責めるような言葉を口にしない。
そんな男気を見せられて、目の前の青年が何とも思わない訳なかった。
男の心臓がドクドクと大きな音を立てて鼓動する。
これはマズイ、そう思っても一度感じた感情は気のせいには出来なかった。
男は顔を真っ赤にして、結愛をうっとりした目で見つめ、口元に笑みを浮かべる。

「庇ってくれて、サンキュ。俺、今日からこの学園に転校して来た阿曽沼あそぬま恭介きょうすけ

そんな声が聞こえたが、結愛の意識は段々と薄れていった。
これは間違いなく、気絶と言うものだろう。
恭介が結愛を心配する声が響き、完全に意識を失ったのは言うまでもない。


転校生は非王道。


2024.09.28

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