バッチバチ
恭介から電話があり、保健室へかけつけると結愛がベッドで横になっていた。
真琴は気絶する結愛を見つけ、一目散にその体を抱き締める。
恭介はそれを唖然と見つめていたのだった。
「ねぇ、何で結愛が気を失ってるの!?恭介、何をしたの?」
真琴の目には涙が溜まっており、一方的に責められる。
だが、言われて当然の為、否定する言葉が見つからない。
それよりも真琴は何と言ったのか。
この生徒を結愛と呼んでいた。
恭介の脳内に、真琴が常日頃から愛しそうに呼んでいる名前を思い出す。
こんなに取り乱しているのはそのせいか、と合点がいったのだった。
真琴は酷く大切なものに触れるよう、結愛の頬に手を添える。
「結愛…、ねぇ、何で…?どうして、こんな…」
今にも泣き出しそうに顔を歪め、真琴は恭介を睨み付けた。
「結愛にだけは手を出さないでって言ったよね!?いつもみたいに味見して、気絶するまで抱いたんでしょ!恭介のバカ!おたんこなす!性病にかかっちゃえ!!」
何故、ここまで罵られなければならないのだろうか。
そして文句の言い方が小学生ちっくなのは少しだけ面白いのは内緒だ。
それにしてもだ、ここまで怒られる理由が見つからなくて、この時にようやく恭介は理解した。
「そんな事する訳ねぇだろ。俺が困ってる時に、そこにいる結愛って奴に助けてもらったんだよ」
その言葉に、真琴は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。
「助けてもらった…?」
「ああ、正門から落ちた所を下で受け止めてくれたんだよ…。こんな小さくて軟弱な体なのに、身をていして…」
恭介が申し訳なさそうに呟く。
それに真琴は安堵の表情を浮かべたのだが、次の瞬間にはまた恭介を睨み付けたのである。
「結愛に何かあったら、君を殺すからね」
冷たい光を放つアイスブルーに、恭介が内心溜め息をついた。
どうやら、自分は彼のスイッチを入れてしまったようだと。
そして遅れてやって来た玄心が結愛の姿を見て、目を大きく見開き驚いていた。
そして真琴同様、恭介へ非難の目をあびせたのである。
「恭介…、まさか、あなた…」
玄心の顔が信じられないと顔面蒼白になる。
「いやいや、犯してねぇし、手すら出してねぇよ…。ちっとはお前らダチを信用しろよな…。二人して、何なんだよ、全く…」
あまりにも信頼されなさ過ぎて、頭が痛くなる。
恭介はグッタリとし、その場で項垂れたのだった。
「普段の行いが悪いですからね…」
玄心が冷たい目で恭介を見下す。
「本当にそうだよ。僕、危うく恭介を殺すところだったよ。良かったね、誤解解けて」
真琴の目が本気の色を出しており、恭介の体に悪寒が走る。
「何だろ…、目から水が垂れて来た。俺、マジ人間不審になりそ…」
恭介は目元を拭い、勘弁してくれと呟いたのだった。
「あ〜…、お前らピーピー、ピーピー、ヒヨコみたいに鳴くんじゃねぇよ…」
背後から気怠そうな声がし、真琴と玄心の二人が振り返る。
そこには保険医の雅治がいた。
結愛の担任でもある、あの無気力ダメ人間だ。
「こいつ、脳震盪起こしたから、24時間ついててやれよ。嘔吐したら夜中だろうが何だろうが、すぐ俺を呼べ。面倒臭ぇけど、駆け付けてやっから…」
ぶっきらぼうで言い方は悪いものの、ちゃんと結愛を心配している様子が伝わる。
だからだろう、真琴も玄心も何も言わずに素直に聞いていたのだった。
「なら、僕の部屋で看病するよ」
真琴が心配そうに結愛の手を取り、そこに口付けた。
「真琴様はお忙しいので、是非か私が手取り足取り看病させて頂きます」
もう片方の手を取り、玄心もそこに口付ける。
「ねぇ…、何してくれちゃってるの?玄心バカなの?勝手に僕の結愛に触らないでくれる?」
真琴が冷たい瞳で玄心を睨み付けた。
「申し訳ありませんが、無礼を承知で言わせて頂きます。真琴様こそ、私がいなければ何も出来ない癖に、看病ですか?少し…いえ、だいぶ可笑しくて笑ってしまいますね。そして、あなたの結愛様ではありません。そうやって所有物みたいに結愛様に触れるのは止めてもらえませんか」
玄心の目が笑っておらず、辛うじて口元だけ弧を描いていた。
「糞ガキが…、ここ何処だと思ってんだよ。うるさくすんなら、出てけよな。…ったく、教師なんかやるモンじゃねぇな…」
雅治がブツブツと愚痴り始める。
その様子に恭介が、何だこれカオスじゃねぇか、と呟いたのだった。
病人の前では静かにしましょう。
2024.10.06
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