同じ穴のムジナ
ほとりは飛鳥を連れて、風紀室へ戻って来た。
当然、室内には咲雨の姿があり、ほとりの背後にいる人物を見て目を大きく見開いたのである。
「大友…?」
咲雨が躊躇うのも無理はない。
飛鳥の制服はボロボロであり、顔中心に血が滲み出ているのだから。
「夜中振りやな、咲ちゃん」
ニコニコ笑っているが疲労感が伺え、相当な人物との争いをしたのだと予想する事が出来た。
「どうしたんだ…、その傷は…」
喧嘩でほぼ負けなしの飛鳥が怪我をしてる事実に咲雨は驚愕するしかなかった。
「ここではあんま深くは言えんけど、何や外からいらん虫が迷い込んどってな。それを排除しとったら、この有り様やねん」
両手を広げて、自分の姿を改めて再確認させる。
「……いらん虫って、お前を負かせる人間がそう易々と…」
そう言いかけて、咲雨の言葉が途中で止まる。
ほとりも思うところがあるのか、口には決して出さないものの確信はしていた。
「そや、咲ちゃんが思うとる相手で合ってるで」
飛鳥は痛みなど感じさせない笑顔を向ける。
そして、この場で誰もその人物について発言しないのは、学園の中にいるからだ。
どこに監視カメラ、盗聴器が仕掛けらへてるかわからない。
そんな危うい状況で、四神に関係するものはアジトでしかなるべく話さないようにしていた。
誰が、どんな目的で、聞き耳を立てているのか油断ならないからである。
「まさか、また潜り込んでたのか…!?」
咲雨の言葉に、飛鳥がパチンと指を鳴らした。
「さすがや!その通りやで」
予想はついていたものの、実際肯定されると複雑な思いにかられる。
「…犬神には俺から伝えておく…、とりあえず座れ…」
ほとりが救急箱を取り出し、飛鳥の手当てをし始めた。
それを飛鳥は嬉しそうに頰を染め、満面な笑顔で咲雨を見つめる。
「ほとりちゃん、ありがとさん」
「…名前で呼ぶな…」
こんな時でもブレない彼が、飛鳥はまたお気に入りだったりするのだ。
「本当に何でも出来んねんなぁ?オカンみたいやで」
その言葉に、ほとりがしばし固まる。
薄々、自分でもわかっていた。
面倒見良い事も、弱ってる人間をほっとけないのもお人好しならではの性分なのだろう。
「御子神、すまないな。こいつはこれでも褒めてるつもりなんだ」
咲雨がすかさずフォローに入った。
わかってるとばかりに、無言を貫くほとりに不器用な奴だ、と思ったのは内緒である。
「で?俺と咲ちゃんはここで永久ちゃん待っとればえぇの?」
手当が終わり、飛鳥はソファーの背もたれに体を埋めた。
「……そうだな」
ほとりはスマホを取り出し、永久へ連絡する。
いつもは直ぐに出るのに、今日に限って中々出ない。
その事を不思議に思い、留守電に伝言だけ残す事にした。
「永久ちゃんが電話出ないなんて、珍しい事もあるもんやな」
飛鳥の言葉に、その場の全員が頷く。
するとしばらくして、ほとりのスマホの着信音が鳴ったのである。
「……はい、御子神です…」
電話口から聞こえて来るのは、永久の穏やかな声だった。
「…はい、……本郷が…?わかりました、伝えておきます」
驚いたようなほとりに、咲雨達が視線を向ける。
そして複雑そうな顔をして、二人へ向き合ったのだ。
「…今日はもう帰って良い、らしい…。…今夜、また例の場所で…だ、そうだ…」
伝言だけ伝えると風紀室のドアを解除した。
「いやいや、アカンで。さっき結愛ちゃんの名前出したやん。俺らにも教えてやぁ」
当然のように帰らそうとするほとりに、飛鳥が突っ込みを入れる。
「………」
ほとりは黙りを決め込み、今夜詳しい事を委員長が教える、とだけ言って二人を部屋から追い出したのだ。
意味がわからない咲雨達は、これ以上聞いてもほとりが答えない事を知っている為、互いの顔を見合せアイコンタクトする。
「隠し事好きなトップを持つと苦労するで、ホンマ」
「それをお前が言うか…」
咲雨は目を細めて呆れ顔をする。
「おん?どない意味やねん」
「お互い、秘密主義者だろうが」
ハァと小さく溜め息を吐いた。
「咲ちゃん、酷いわぁ。俺はいつでも素直で良い子やで」
わざとらしくショックを受ける飛鳥に、本日何回目かわからない溜め息を吐いたのだった。
結局、同じ穴のムジナ。
2024.11. 15
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