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チャイニーズマフィアがはびこる街に、一人の平凡な青年がエプロンをつけ、笑顔で花を売っていた。
花と言っても厭らしい意味ではなく、本物の方だ。
治安の悪いこの場所で、立ち止まる者は誰もいない。
筈だったのだが、青年の笑顔を満面の笑みで見つめる大きな影が一つあったのだ。
平凡な青年がこうして花屋を開店出来るのも、この大柄の男のお陰なのだった。
「おはようございます。
クラヴィスさん」
平凡な青年こと、太刀川綺羅が通りの向こう側にいる男へ、ペコリとお辞儀をしたのである。
ずっとストーカーのように静かに見守っていた男は頬を赤らめ、鼻の下を伸ばして、デレデレしながら手を振った。
この男こそ、毎日飽きもせずに顔を出す、クラヴィスこと、ユーリ・クラヴィス、これでも歴とした警察官の警部補なのである。
「やぁ、キティ。今日も相変わらず、可愛いね。その笑顔の為なら、どんな危険な仕事も乗り越えられるよ」
通りからウキウキと歩み寄り、道路を素早く横切る。
その間に車が何台も通過するが、華麗に避けて、綺羅しか見えてない様子で、視線を一切外さない。
「あはは、またまた〜。危ないですから、信号使って下さいね」
そう言えば、一秒でも待てないと言わんばかりに、綺羅の両腕を自らの大きな手のひらに優しく包み込む。
「キティに話しかけられて、そんな悠長な時間なんてある訳ないだろ。ああ…、近くで見れば見る程、美しい」
男は紳士がするように、片膝を地面につけて、綺羅の手の甲に口付けを落とす。
「あ、えっと…、何と言いますか、これはさすがに…恥ずかしい、です…」
綺羅は顔を真っ赤にして、未だキスされてる手元とユーリを交互に見つめた。
「はぁ、キティ、照れてる顔もプリティだ。本当に食べてしまいたくなるよ」
綺羅の手の甲に舌を這わせ、指の間をピチャピチャと舐める。
「っ、あっ…」
綺羅はフルフルと体を震わせ、ユーリの舌の感触に耐えた。
生き物のように厭らしく動くそれに、綺羅の目からは生理的な涙が溜まる。
それを見て、ユーリは更に興奮し、鼻息を荒くさせたのだった。
「ん、…ちゅ、…はぁ、可愛い」
舐めながら、何故かユーリの下半身がテントを張っているのを綺羅は見逃さなかった。
「っ、やぁ…!」
嫌々するように頭を左右に振れば、溜まった涙がポロリと雫になり地面へと落ちる。
「僕のキティ…、愛してるよ」
恍惚とした表情で綺羅を見上げ、誰もが見とれる微笑みを浮かべた。
ただ残念なのは下半身が完全に勃起し、ハァハァと尋常じゃない興奮からから鼻の穴が広がっている事だったのである。
これさえなければ、本当に紳士で文句のつけようもないのだが、いかんせん。
ユーリは超がつく程の変態であり、綺羅のストーカーなのだった。
だが、当の本人はストーカーされてるなど微塵も思っておらず、これがアメリカンジョークなのだろうとのほほんとしていたからこそ、更にユーリの本能に火をつけてしまったのである。
綺羅は20年生きて来て、モテた試しもなければ、言い寄られた経験もなかった。
だから、これが口説かれてる、なんて夢にも思わなかったのだ。
「はぁ、キティの手は小さくて甘くて美味しいよ。今日もどうにか激務をこなせそうだ」
ユーリは白い歯を見せて、ニヒルに微笑んだのだった。
今日も朝からイエス、ストーカーライフ。
2024.07.27
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