tori


2


ウィルはお風呂まで入らさせてもらい、ゆっくりと浸かる。
紫以外の料理を食べるのは久々で、本当に楽しい時間だった。
まるで家族のような、そんな錯覚さえ起こす程に。
お風呂から出て、体を拭き、階段を登れば、紫といろはの楽しそうな声が聞こえた。
廊下を歩き、2人の会話に聞き耳をたてる。

「卒業したら、一緒にくらそうぜ」

いろはの楽しそうな声に、紫が大きく返事する。

「やった!!ずっとゆかと暮らしたかったんだ!約束覚えててくれてたんだな」
「当たり前だよ!俺だって夢だったんだから、いろはと暮らすの。高校も同じ所に行けるようにウィルにお願いした!」

2人がギャーギャー喜び騒いてるのがわかる。
本当に仲良しなんだなと思い、笑みが溢れた。
と同時に、卒業したら、紫は自分の元から旅立ってしまうのかと切ない気持ちが巣食う。
ずっと側にいた少年。
隣にいるのが当たり前だった。
これからもずっと側にいるのもだと思っていたから、その言葉に酷く動揺してしまう。
いつかは別々に暮らすだろうと思念していたが、それがあまりにも早いなんて想像する事が出来ただろうか。
いや、出来る筈がなかった。

「……」

この間触れた紫の唇の感触が未だに残る。
熱くて、柔らかくて、甘くて、扇情的で、思わず夢中になって貪った時が脳裏に過ぎった。
もし、あの時にギルバートが来なかったら、自分はどうしていただろう。
あの小さな体を組み敷き、まだ誰も受け入れていない中に己を挿入して。
そこまで考えて、ウィルは正気に戻る。
自分は甥に対して何て感情を抱いているのかと。
自らの唇に触れ、目を閉じて煩悩を振り払った。

「けど、本当平気か?男子高だけど、色々問題あるんだぞ?前にも言ったけど、ホモやバイの巣窟なんだよ。俺は外部生だし、実家暮らしだから良いけど、ゆかはそうもいかないだろ?」

その言葉にウィルが驚く。
ゲイとバイの巣窟だなんて、聞いてない。
しかも2人の家から通えない距離だって事も知らされてない。

「…うん、その事なんだけど…俺さ、そろそろウィル離れしようと思って…。アメリカだと治安悪くて1人暮らしとか考えられなかったけど、日本だったらいろはもいるし、言葉もわかるから、そろそろウィルを開放してあげたいんだ…」

どんどん紫の声が小さくなっていく。
そして、想像すらしてなかった衝撃発言に、ウィルは固まった。
紫が離れて行く。
自分を開放してあげたい。
全く言っている意味がわからなかった。
こんなにも自分は紫野上側にいたいと願っているのに、そんな気持ちが重荷だったのかと衝撃を受けてしまう。

「ウィルさ…俺がいるから、この10年、誰とも付き合ってないし、そう言う話が一度もなかったんだよね…。22歳からずっと、俺の親代わりしてくれてさ、何不自由なく暮らさせてくれて、遊びたい年頃だったと思うんだよね。22って若いじゃん?なのに、ずっと側にいてくれたんだ…。本当に…俺にとってウィルは父さんよりも父親なんだよ」

紫が泣いているのがわかる。
どんどん声が震えて来ていた。
今すぐにでも抱きしめて、頭を撫でて、口づけをしたい。
そう思い、動き出そうとすれば、紫の言葉にはっとなった。

「なのにさ、俺は恩返しどころか、まだ子供じゃん…。ウィルに自由になってもらいたいし…大学には行かないで働こうと思って。それでさ、ウィルにたくさん色んな物を買ってあげるんだ。昨日見た?靴がボロボロなの。俺のはいつも少しでも壊れれば買ってくれるのに、自分のはヨレヨレになっても壊れても履き続けてさ…」

本当、馬鹿だよ、と嗚咽を漏らして紫が泣く。
いろはが優しく笑う気配がした。

「ならさ、明日、帰るまでに時間あるだろ?一緒にウィルさんの靴を買いに行こうか」

まるで兄のような優しさで紫を包み込むいろは。
2人の会話を聞き、紫の本心を知り、ウィルは号泣していた。
何でこんなに優しい子なんだ、と。
紫が来て、幸せだった。
ずっと家族バラバラだったから、まるで弟が出来たようで嬉しかったのだ。
ずっと自由だった。
紫のお陰で人として大切なものをたくさん教わったのだ。
人を愛する事。
紫を育てる事で自分も成長して行く事。
ずっと忘れられない人がいて、その人を想うと苦しくて死のうとした事。
けど、紫のお陰で救われた事。
全てが紫が与えてくれた事で、幸せでしかなかったのだ。
自分から離れて行くなんて、いけない。
紫が高校を卒業して、いろはと住むなら良い。
でもそうじゃなくて、離れるなら全力で阻止しようと心に誓ったのだった。


2024.09.15

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