blush


「忍って忍ぶって書いて忍なんだよハンゾー」

他の合格者達へにこやかに名刺を配っている同僚にあきれてため息がもれる。そもそもなんで忍が名刺なんて持ってるんだ。

「これからの時代、忍んでるだけじゃ生き残れないぜ」

ふふん、とばかりに胸を張ったハンゾーにクラピカやレオリオも苦笑いだ。まぁ、ハンターの同期なんて貴重だし、連絡先交換には賛成ですけど。ジト目でハンゾーを睨んでいるとゴンくんが純粋そうな瞳で見上げてきた。

「瑞樹の分はないの?」

「忍で名刺なんて持ってんのコイツくらいだよ」

肩をすくめるとゴンくんが残念そうに眉を下げた。いちいち仕草が子供のようで罪悪感に駆られる。いや12歳って子供なんだけどさ。こんな子供がハンターかぁ。見上げられた瞳にハンゾーはやられたんだなぁと見つめ返していたら私までやられそうになってしまう。

「まあ、なんかあったらハンゾーに連絡くれればいいよ」

「取り次がねぇぞ俺は」

ハンゾーを指差して答えたらばっさりと断られた。どうせ連絡なんて来やしないのだろうからそこは適当に話を合わせといてくれよとハンゾーを睨んだ。しかし私の視線なんて歯牙にも掛けずハンゾーは近くに居たクラピカから先ほど自分で渡したばかりの名刺をちょっと貸してくれと受け取り裏面に何か書き出した。

「ほら、瑞樹の連絡先」

「あ、ちょっと」

何を勝手にと言いかけてクラピカと目が合って咄嗟に口をつぐんだ。

「瑞樹、俺にも書いて」

にっこりと笑ったゴンくんの笑顔に負けてハンゾーの名刺の裏に連絡先を書き込む。ついでにレオリオも、といったら、ついでかよ、と笑いながらレオリオが名刺を渡してくれた。

「なんだったら依頼とかも受け付けるよ。護衛暗殺諜報なんなりと」

「そうだな。同期のよしみでお安くしとくぜ!」

じゃあね、と手を振って3人と別れる。短い間だったがあの3人に出会えたのは良かった。今時珍しい友人のために本気で怒ることが出来る人達だった。キルアくんを無事に迎えに行けるといいけれど。他人事ながら少々気がかりだ。

「良かったのかよ」

「何が?」

突然のハンゾーの問いに見上げればハンゾーがじっと見下ろしていた。

「クラピカの連絡先聞かなくて」

「ばっ……!」

思ったより声が出て慌てて口元をおさえる。かぁっと顔が熱くなるのを感じた。ちらりと背後を見るが、別れた3人とはもう距離が出来ていて先ほどの声は聞こえなかったようだ。ほっと胸をなで下ろす。

「……態度に出てた?」

「いや。ちょっと変だなくらいだな。鎌かけただけだ」

「えっ」

しらを切れば良かったと後悔したが、もう遅い。今まで恋愛沙汰なんて無縁だったしそれは幼馴染みであるハンゾーもそれは知ってるのでなんか気恥ずかしい。出来れば知られたくはなかった。

「で、本当に良かったのかよ」

「……いい」

「向こうが連絡してくるの待つ気か?」

「連絡なんてしてくるわけないでしょ」

「あ?じゃあどうすんだよ。下手したらもう二度と会えないぜ」

「だからいいんだって」

思わず早足になる。ずんずん進むがハンゾーはピッタリくっついてくる。はーっとあからさまにため息を吐かれたのが分かった。

「今時奥手なんて流行んねえぞ」

「うるさいな」

「淡い初恋じゃあるまいし」

ぴたっと足を止める。

「……マジかよ」

私に一歩遅れて止まったハンゾーが私の赤い顔を見て少し目を見開いていた。

2017.07.14
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