初恋ハンター


飲み会帰りに千鳥足でふらふらしてたら車にひかれて短い生涯を遂げたと眠りについて目覚めたら赤ん坊としておぎゃあと生まれてこれが輪廻転生ってやつかと思っていたら何故か生きていた時代より過去に生まれていてついでに双子の兄がいたしその兄は見覚えのある人間だった。

「ただいま」

兄の声がしたのでリビングを扉を開けて顔だけ玄関に出る。

「おかえり。遅かったね」

「ちょっと部活でね」

生物部という冴えない部活でこんなにも遅くなるなんて何か揉め事でもあったのだろうか。
兄を見覚えのある人間といったが正確には妖怪である。そして見覚えがあるというのは生まれる前に出会っているとかではなく漫画で読んだキャラだという輪廻転生じゃなくてトリップでしたかというオチだ。幽遊白書という漫画はリアルタイムで読んでいた世代ではないが初恋ハンターと名高い蔵馬は知っていたし知り合いに進められて完結後に原作を読んだのでどういう人間かは知っている。人間じゃなくて妖怪だけど。
妖怪の兄の影響で私は日頃から見たくないものが見える体質で幼少期はトラブルに巻き込まれることも多かったが兄から「自分の身は自分で守れ」と身を守る術を叩き込まれて育ったのでここ数年は平穏な日々を送っている。
生まれる前の記憶がある双子は随分無愛想な幼少期を過ごしたが兄は母が自分を庇って怪我をしたことを切っ掛けに非常に愛想がよく母に献身的な息子へと育った。一方私はというと特になんの切っ掛けもなく相変わらず無愛想な娘をしている。とはいえシングルマザーの母の代わりに家の家事をほとんどを担っているので献身さでは負けていない。

「本当に部活?」

「え?」

「彼女とかじゃなくて?」

私の突然の問いかけに静止した兄を見る。なんでそんなこと聞いてくるんだという顔をしていた。私も兄もお互いのことは無関心だったのであまり突っ込んだことを聞いたり話したりしたことがない。おかげで15年生きてきてお互いの趣味や嗜好をほとんど知らない。まして恋バナなんてしたこともない。だからこの手の質問に驚いてもおかしくはなかった。

「まさか。違うよ」

「ふーん」

「どうしたの急に。そんなこと聞いて」

では何故私がそんな質問をしたかというとここ数日悶々と考えていたことがありそれに関係しているからだ。悶々し過ぎて寝不足になりついに今日授業中居眠りをしてしまったので考えてばかりではなく何か行動を起こそうと思った次第である。

「あのさ、最近秀一のこと考えるとざわざわするっていうか、手足が冷たくなったり顔が熱くなったりするから、友達に相談したら『それは恋だよ』って言われたんだけど私どうしたらいい?」

私が考えるより私よりもずっと長生きしていて私よりもずっと賢い兄に聞いてしまうのが早いと思ったのだ。このことを思いついた時は我ながらナイスアイディアだと自分で自分を称えた。ただ今まで見たことがないようなハトが豆鉄砲くらったような兄の顔を見て間違えたかもしれないとも思った。

2017.07.20
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