Love Letter


手紙を書くのなんて何年ぶりだろう。

羊皮紙の上で羽ペンをうろうろさせる。かれこれ1時間はそんな感じだ。
何から書けばいいのか分からない。どこまで伝えたらいいのか分からない。さながら恋文のようだなと自嘲気味になる。恋なんて手紙よりもお久しぶりだ。しかし、手紙の相手が恋の相手ではない。ダンブルドアは恋慕の対象には些か歳が離れすぎている。

あまり深く考えすぎてもきりがない。
ゆっくりと息をはく。
乾ききってしまった羽ペンをもう一度インクに浸して、ようやく羊皮紙に羽ペンを着地させる。文章を書くのはうまくないが、彼は監督生も務めたくらいだし優秀であるのはダンブルドアも分かっているので私の拙い文でもきっと大丈夫だろう。

「こんなもんだろ!ダンブルドアならきっとちゃんと考えてくれるはず!」

末筆に彼の名前と連絡先を記載して封筒に放り込んだ。





「こんにちは、ルーピンさん」

「こんにちは、カーライルさん」

「前回のお仕事はどうでしたか?」

「とても良かったです。また、依頼があれば是非紹介して頂きたい」

「それは良かった」

私が所属している公共職業安定部は魔法省管轄の就職支援を目的とした行政機関である。中でも私が窓口を担当している特殊支援窓口は名の通り特殊な事情で就職が困難な人へ仕事を紹介・斡旋している。
目の前の彼は先月私が紹介した1ヵ月程度の短期契約の仕事を終えたばかりだ。新しい書類を引っ張り出し書類に必要事項を記入していく。備考欄に忘れずに「人狼」と記入した。

リーマス・J・ルーピンは非常に評判のいい労働者だ。
礼儀正しく、コミュニケーション能力もあり、魔法の腕も一流だった。人狼には珍しく、しっかりとした学歴もある。
彼が人狼でなければ、それこそ魔法省に勤めていてもおかしくない人材だった。

「こちらが次のお仕事に関する資料になります。半月程度のお仕事です。職務内容と労働契約内容等をご確認していただいて、ご希望であればご署名の上、来週の月曜日までに……」

提出日に月曜の日付を書きかけて、ふとデスクに置いてある卓上カレンダーを見る。来週の月曜日には黄色いペンで丸が書いてあった。

「来週の水曜日までにご返送ください」

この仕事なら水曜提出でも充分間に合う。提出日に来週の水曜の日付を書き込んだ。

「大丈夫です」

声をかけられて書類から顔を上げる。ルーピンさんが居心地が悪そうにこちらを見ていた。

「書類でしたら今すぐにでも提出させて頂きます。ですから、提出期限を延ばして頂かなくても結構です。ご迷惑でしょう」

「いえ、労働契約の書類はきちんと確認なさってください。当機関でも検閲はしていますので、あからさまに不当なものはないでしょうが、あなた自身にとっては不利な契約内容の場合もあります」

「今までご紹介頂いたお仕事は大丈夫でしたから、今回も大丈夫でしょう。その……気を使って頂いているんでしょう。来週の月曜日が満月だから」

リーマス・J・ルーピンは非常に評判のいい労働者だった。
それなのに、たかが書類を提出するだけにもこんなにも恐縮してしまう。

「あなた達が働きやすいようサポートするのが私の仕事です。例外はありません」

なんて不公平な世の中だろう。
書類を押し付けるように彼へ差し出した。





ホグワーツ魔法魔術学校 校長 アルバス・ダンブルドア様

拝啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
突然のお手紙失礼致します。私はレイブンクロー卒業生で現在魔法省の公共職業安定部に勤めておりますリース・カーライルと申します。
日刊預言者新聞にて、貴校の闇の魔術に対する防衛術の教授が長期入院されたことを知りました。そこで来期に向けて新しい教授をお探しかと存じまして、是非とも推薦したい魔法使いがおり、こうして筆を執った次第でございます。
彼は非常に優れた魔法使いであり、また、人格者でコミュニケーション能力に長けており教職に適任と保証致します。些細な事情から現在求職中の身でありますが、些細な事情といいますのも、本当に些細で取るに足らないことでありまして、慈悲深い校長でしたらご配慮頂けるものと存じます。
貴校にとりまして最もふさわしい人物であると確信しており、ここにご紹介させていただきます。
何卒格別のご高配を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
敬具 


2017.07.06
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