A little 「ご、ごめんないさ……」 べっとりとしたスライム状の薬を頭から垂らしたリーマス・J・ルーピンを見る。スライムが垂れていても美しいと思うのは病気だろうか。 「大丈夫だよ、リース。それよりこちらこそぶつかってしまってごめんね」 にっこりと紳士的に笑った彼はやっぱり美しい。 リーマス・J・ルーピンと初めて出会ったのはホグワーツに向かう列車の中でだった。 コンパーメントで一緒になったリーマスは愛想もよくユーモラスな少年だった。なによりとびっきり美しかった。人見知りの私でもおしゃべりが弾んでホグワーツに着く頃にはすっかり仲良くなり、一緒の寮になれたらいいね、と笑いあったりもした。 だけど残念なことに彼はグリフィンドールで私はスリザリンだった。 グリフィンドールとスリザリンは犬猿の仲で有名だった。隙あらばいがみ合っていて特にここ最近のクディッチでの争いは泥沼状態だ。なんたってジェームズ・ポッターが煽りに煽っているのだから。おかげでグリフィンドール生とスリザリン生は廊下で雑談でもしようものなら一気に学校中の噂になるし寮では村八分状態だ。そのせいで私はリーマスにはおちおち声もかけられない。 列車での出会いが忘れられなくてリーマスが1人になる機会をずっと伺っているのだけれど、リーマスはジェームズ・ポッターやピーター・ペティグリュー、それからシリウスといつも一緒に居て近付くこともできない。じれったく思ってリーマスとどうやって話すかということばかり考えていたら姉のナルシッサに「あなた彼のこと好きなの?」と聞かれてしまった。 そんなことを言われると思いもしなかった私は数秒フリーズしてしまったのだけれど、すぐにそのフリーズは顔に集まった熱で溶けてしまった。 授業終了と同時に医務室へ向かう。リーマスがスライムを取るためにいるはずだ。気がついたら走ってしまっていて医務室の前で乱れた呼吸を整える。荒い息が落ち着くまでの数秒がやけに長く感じていると医務室の扉が開いた。 「リース」 従兄弟のシリウスだった。シリウスは一度医務室のちらりと見たが、すぐに後ろ手で扉を閉めた。 「お前あの薬なんだよ。今日の授業で作ってた縮み薬はあんなスライムにはならないぜ」 「ちょ、ちょっと失敗したの!」 「ちょっと?」 ニヤニヤと嫌らしく笑うシリウスをはたく。 「リーマスは大丈夫なの?」 「ああ、ちょっと身長が縮んでるけど他は影響ないみたいだ。効果も数日で消えるだろうってスラグホーンも言ってたし大丈夫だろ」 ほっと胸をなでおろす。あんなスライムでも縮み薬としての効果はあったらしい。命に別状ないようなら良かった。 リーマスの様子を確かめようとシリウスをよけて医務室の扉に手をかけるとシリウスに腕をつかまれた。 「お前さ、リーマスのことどう思ってんの」 「え?ど、どうって……」 シリウスの質問の意図が分からずうろたえる。だが瞬く間に顔に熱が集まっているのは分かった。 シリウスが少し目を見開いたところで掴んでいた医務室のドアノブがひとりでに動き出した。 「おや」 ジェームズ・ポッターだ。うげっと声が出そうになるのを抑える。ジェームズ・ポッターは寮の対立を抜きにしても苦手だった。シリウスもこんな人とつるむのやめて欲しい。 「噂のお姫様のご登場だよ」 お姫様という言葉に私が眉間に皺を寄せているとポッターがさっきのシリウスよりいやらしくニヤニヤと笑って医務室のベッドを指差した。促されるままに視線をやると、そこにはおよそホグワーツに似つかわしくない小さな子供がベッドにちょこんと腰掛けていた。どこか見覚えのある鳶色の髪が揺れる。 「……リーマス?」 びくっと肩を揺らした子供はやっぱり美しかった。 「ちょっと縮んだだけって言ったじゃん!!!」 「ちょっとだろ。お前のスライムに比べれば」 2017.07.06 拍手 |