コート *結婚直後位のデート 「クレアってさ」 顔が良いから何着ても似合うよね。という言葉を飲み込む。 クレアはあんな仕事をしているのにも関わらず、ぱっと見は人が好きそうな好青年のような見た目をしている。 身長もそこそこあるし、身体も鍛えていながら着やせするのでスラリとしたスタイルだ。 ついでに性格も、ちょっと尊大なところはあるが、本人は自覚しているので一般人の前では猫を被って見た目通りの好青年を演じることもある。 クレアは、多分、初対面の人にプロポーズしてしまうところを直したら、かなりモテると思う。 妻としての過大評価ではなく、純粋に、そう思う。 「なんだ?俺がどうかしたのか?」 試着していたコートを脱ぎながらクレアがこてんと首を傾げた。 偶に見せるそういう子供っぽい仕草を可愛いと思うのは、妻としての過大評価かもしれない。 「……そのコート買わないの?」 質問を無視して、クレアの手によってハンガーに戻されたコートを見る。 シンプルなデザインでありながら、クレアのスタイルの良さが程良く強調されていてとても似合っていた。 「これか?まあ、今のコートがまだ着れるしな」 新品を買う必要はないだろ。とクレアはコートをかけたハンガーを店のハンガー掛けに戻した。 結婚して分かったことだが、クレアは物持ちが非常に良い上に物欲がほとんど無かった。 「ヴィーノ」としてそれなりの額を稼いでいるのだからもっと散財しても良いのではと思い、そう聞いたこともあるが、本人的には「昔貧乏だった時の性分が抜けないんだ」とあまり自分の物を買いたがらなかった。 「俺よりも、瑞樹は気に入った服見つけたか?」 貧乏だった頃の性分が抜けないという割に、しょっちゅう私に服や雑貨を買おうとするので非常に困る。 「この白のワンピースとかどうだ?瑞樹の黒い髪に良く似合うと思うんだが……」 クレアが棚から手に取って渡してきた白のワンピースを広げてみる。 THE・清楚、という感じのデザインだった。 クレアの抜けない性分は貧乏だけではなく、童貞臭さもだなぁと思ってそのワンピースを無言で棚に戻した。 「……私、これがいい」 先程クレアがハンガー掛けに戻したコートを手に取る。 「男物だぞ?」 「私が着るんじゃないから」 コートを持ってレジに向かう。 そっと値札を見ると、そこそこ良いお値段をしているが、買えない額じゃない。 会計でクレアが出そうとするのを制止して自分で稼いだお金で支払う。 「ヴィーノ」や「フェリックス」程ではないが、軌道に乗り出した副業やベリアム議員からの仕事の報酬はこの程度のコートを躊躇なく買える程度の利益を出しているのだ。 「はい」 会計を済ませて店の外に出たところでクレアに買ったばかりのコートを渡す。 クレアが驚いた様に瞬きする。 「俺に?いいのか?」 「いつも私ばかり買ってもらってるし、それにクレアにとても良く似合っていたから、今度のデートで着て欲しい」 そう言うとクレアが本当に嬉しいそうに私を抱きしめてくれた。 |