クレアとの●●の話12 「瑞樹ちゃん?」 名前を呼ばれて振り返るとにっこりと笑った品の良いご婦人が立っていた。 「ケイトさん!」 「しばらくぶりね。瑞樹ちゃんも買い出し?珍しいわね」 微笑んだケイトさんの手には買い物籠があり、野菜がいくつか顔を出している。 キースさんとの夕食の材料だろう。 彼女の作る美味しい手料理を毎日食べれるキースさんは本当に幸せ者だと思う。 「そうです。いつも食事を作ってくれてる子が体調崩しちゃって」 「あら、そうなの。大変ね」 「出来合いのものを買って済ますところです」 先程のリアムさんが値切りしてくれた食べ物達を見せる。「たくさんね」とケイトさんが笑った。 そのままケイトさんの視線が私の隣にいたリアムに向けられる。 「あ、この人はリアムさん。私の仕事仲間です。リアムさん、こちらはケイトさん。キース・ガンドールさんの奥さん」 「……どうも。旦那さんには世話になってます」 「お店の店員さんよね」 リアムさんは無愛想な顔で軽く会釈をする。 ケイトさんは私の横にいたリアムさんにもにこっと微笑んだ。何度かお店に来てくれてるので皆の顔を覚えてくれていたらしい。 「瑞樹ちゃんのお店にも久しぶりに行きたいわ。新作は出てるの?」 「出てますよ!是非いらしてください」 「そうねえ。じゃあ、荷物置いたら行ってもいいかしら?」 「是非是非。お待ちしてます」 ぶんぶんと手を振ってケイトさんと別れる。 ケイトさんがお店に着てくれるのは嬉しい。 あの人はスタイルが良いので色んな服を着て貰うと様になってかっこいいのだ。 信号は当に青になっていて。 先程よりもずっと軽い足取りで横断歩道を渡る。 「アンタって」 リアムさんが後ろから呼びかけられて振り返る。 「ほんと、育ち良いよな」 「えっ」 今のどこにその要素があったのか分からない。 「えっ」 少しだけ困ったように笑うケイトさんに素っ頓狂な声が出る。 店に戻って、買ってきた出来合いのものを店に居るメンバーで食べた。私とリアムさんとリズさんとルーカスさんというなんとも絶妙なメンバーでの食事だった。 お客さんでも来たら食事のタイミングをずらせたけども、生憎今日の客足はからっきしだった。 食事をとった後はリアムさんは午前中と同様自室に戻り、私とルーカスさんとリズさんという3人で暇な店番をしているところだった。 素っ頓狂な声を出して固まってしまった私にケイトさんは様子を伺う様に首を傾げた。 っていうか、さっきから同じような声ばかり出している気がする。 「もちろん、迷惑じゃなければなんだけど……」 「とんでもない!凄く助かります!ちょっと皆に言ってきますね」 ぱたぱたと階段を駆け上がってケイトさんからの予想外の提案を伝えに行く。 厨房に顔をのぞかせると冷蔵庫をのぞき込んでいたリズさんがこちらを振り向いた。 「ああ、瑞樹さん、夕食もやっぱり出来合いに……」 「夕食作ってくれる人が来ました!」 「……は?」 「ケイトさんっていうキースさんの奥さんが夕食作ってくださるそうです!」 リズさん珍しく目を瞬かせた。 「お口に合うといいんだけど」 「めちゃくちゃ合ってますよ、奥さん!」 タンドリーチキンを頬張りながら答えたスパイクさんに一堂は頷いた。 ケイトさんの料理の腕は相変わらずで、味が存分に染みこんだタンドリーチキンとカボチャをペースト状にしたサラダとキャロットラペ。 初めてケイトさんの手料理をご馳走になった時よりも品数こそ少ないものの、どれも美味しくチキンに至ってはおかわりの争奪戦が男性陣で行われていた。 「お口にあって良かった」 「本当助かりました。キースさんも急な仕事で大変ですね」 「あの人はしょっちゅうそうなの」 顔には出ないが少しだけ怒ったようにケイトさんがチキンを頬張った。 私とリアムさんと別れた後、ケイトさんは荷物を置きに家に帰るとほぼ同時にキースさんから夕食はいらないと連絡が入ったそうだ。 それでケイトさんは置いた荷物をもう一度掴んで私達の店に来てくれたという訳である。 とは言っても、ケイトさんとキースさん2人分を想定した食材は少なく、私とリアムさんがもう一度買い出しに行ったのだが。 「こんなに沢山食べてくれると作り甲斐があるわ」 にこにこしているケイトさん横目に私もチキンを頬張った。 「本当に貴方が行くんですか?」 「…………そんなに私じゃない方がいいんですか」 「いや、どうでしょうね。多分大丈夫だと思いますけど」 どっちなんですか。と言いそうになったけど、多分五分五分ってところなのだろう。 夕食が少なめに盛り付けられているお盆を持って、階段を上っていく。 とんとんと上って目的の扉の前に立つ。 こんこんとノックをする。 「クロエさん?入りますよ」 2018.10.23 拍手 |