白石(♀)

「白石ちゃーん、今日は何作るの?」

「今日は寒くなってきたのでぇ、ビーフシチューを作りたいと思いまーす」

「えー?この前シチュー作ったのに?」

「作りマース」

校庭を囲う桜の木が紅葉し始め、虫嫌いには大変な季節。運動部に入るほどやる気なんてないし、文化部に入るほど交友関係もない私は、帰宅部というのもなんか嫌だったのでとりあえず調理部に入部した。
去年までは部員として先輩がいたけれど、今年は私一人。特に部員がいなくなったからって廃部にはならないので一人でも全然大丈夫なのだ。

とても自由が利く部活動なので結構気に入っていたりする。
顧問の白石先生は手先が器用というだけで教師になれたといっても良いほどちゃらぽらんな先生だ。よく牛山先生とかに「邪魔だ」って言われてるのを見るほどにはちゃらんぽらんだ。(手先は器用なくせに手伝いとなるとドジを踏むらしい。)

そんな白石先生であるが、結構生徒には人気者だ。おちゃらけていて、一見不真面目に見える先生は色々と生徒の悩みとかおふざけとか、この年頃にはよくあるような気持ちの変化に寄り添ってくれる良い先生だと思う。
バレンタインなんかは男女問わず生徒から貰ってるのを見たことがある。ホワイトデーにちゃんとお返ししてるのもまた好印象だ。

そんなみんな大好き白石先生と二人、土曜のお昼にビーフシチューを作っている。

「女主名前ちゃーん、そこの玉ねぎとってー」

「はーい。先生はさぁ、彼女さんに作ったことあるの?ビーフシチュー」

「そうなれば良いと思ってたこともありました・・・」

現実ってつらいよねー!と泣きまねをしながらも手は止めずに具材を切っていく先生は流石である。そっか、素人童貞か。

「ちょ、女主名前!女の子がそんな単語言っちゃいけません!!!めっ!!!」

「否定はしないんだね」

「・・・・・・」

無駄話をしながらも手際良く揃えられていく具材達を、何もせず見守る私は危機管理担当だ。もちろん白石先生が調理担当。いったいどちらが生徒なのかと思うかもしれないが、気にしてはいけない。
私も、ものによってはちゃんと調理はするので問題はない、はず。白石先生も楽しんでやってるし。

そんなこんなで特に危なげなく最後の工程に入った(私の役目・・・)。

「おっけ!!!できましたよお」

「わーい」

ビーフ!ビーフ!と急かす。
「どーぞ」

「おいしそう・・・・・・」

「でしょ〜?」

「「いただきます!」」

「はふはふ、ん・・・うま!」

「マジ?・・・うま!」

んまーいと二人でニヤニヤしてる時間がとても楽しい。

「白石ちゃーん、こんなにおいしいお料理作れるならどこにお嫁さんにいっても大丈夫だね」

「ええー、ほんとぉ?じゃあ女主名前貰ってくれるぅ?ダーリンになってくれる?お料理の材料代の他にパチンコ代、競馬代、競輪代、その他諸々かかるけど」

ちゃかしたように言う先生だけど、ふむふむならば驚かせてあげようかな。
私、知ってるんだよ。だから即答してあげた。

「いいよ」

「ギャンブルばっかでわるk・・・・・・えっ」

「いいよ」

「・・・・・・」

この学園はとても大きい。故に多くの部活動が存在しているが、もちろん私たちの様に部員が少ないところもある。自動的に廃部することはないとはいえ、先生方の負担も考え廃部を打診されるのが普通だという。この前土方先生が言っていた。

それを、白石先生はずっと断り続けている、とも。

「私が社会に出て、疲れて帰って来た時に先生が作ってくれたご飯があると幸せだなあ」

それと、時々教師らしからぬ優しい目で見つめてくることも知ってるんだから。
だから、

「卒業まで待ってて下さいね」


私が先生を幸せにするから!!


白石は後に、「ものすんごく可愛い顔で、ちょーかっこいいプロポーズされちゃったらそりゃもう首縦に振るしかできないよお」と赤面しながら同僚に語っていたという。