Shiraishi×Ghost
<無事、付き合うことになりました!>

 杉元から報告の連絡がきた。ずっと気になってた子と付き合うことになったらしい。素直におめでとうという気持ちよりも、一抜けしやがってという気持ちの方が上回ってしまう。既読スルーしてしまおうと携帯の画面を暗くする。

 普段より一層増して煩い校内は、どこも人で溢れかえっていた。慣れない格好をしている名前はどこか座れる場所がないかと探しているが、ほとんど先客がいて使えない。自分の所属する研究室に行こうにも、今いる大学正門からは遠い。今すぐ足を休ませたい名前の顔はまだ午前中だというのに疲労が見える。首からぶら下げたプレートを邪魔そうにしながら、人気の少ない休憩スペースを求めて彷徨い歩く。

 座ることができるが、絶対に人が多いので入りたくはない学食までたどり着いた。『学祭特別メニュー・ビーフシチューオムライス!!!500円!!!!!』の文字に誘惑されながらも、堅い意思で以て、足を研究室の方へと向かせる。

「あの・・・コンテストに参加される方ですか?」
「え?ああ、はいそうですけど・・・。」
「女性?ですよね。写真一緒に撮ってもいいですか?」
「ええ、いいですよ。」

 学食の入り口前に屯していた高校生の女の子たちに声を掛けられた。休日だからか、派手目の化粧に学校指定の制服というミスマッチな装いに、自分とは系統の違う人種だなんて失礼なことを思いながら、快く写真撮影を許可する。

「ありがとうございます!パンフレットで見た時からかっこいいと思ってて!!めっちゃ嬉しい!!」
「そうなんですかー。ぜひ投票もよろしくお願いします。」
「はーい!!!コンテスト頑張ってくさだい!!!」

やばいやばいめっちゃかっこいい!
ホントに女の人?!
芸能人にいそー!!!
マジそれ!!

 彼女たちと別れ、後ろを向いた瞬間に聞こえた内容はどれも私の容姿を賛美するものだった。普段から見た目について色々言われることがあったが、特段役に立たないので正直いらないと思ってたりする。コンテストにだってあまり出たくはないのだが、学祭を運営する委員会に入った友達が、どうしてもと言うから。報酬として私が講義を欠席したときの代理返事を頼んだので、いざという時に遠慮無く使わせてもらうが。

 コンテストの宣伝のために歩き続けて2時間ほど。本気で疲れてきた。研究室がある棟が見えてきた。あと少し。気力を振り絞って足を動かす。容姿は良くても体力がないのがツライところだ。学食のJKたちを見てから、我も我もと道行く先々で写真をねだられくたくただ。右から左から、後ろから。四方八方からくる視線をなんとか無視し、研究棟の入り口をくぐる。
 外よりかは人気の少なくなった研究棟だが、それでもやはりいつもよりは多いようだ。普段なら聞こえてこない若人の声が聞こえてくる。

 入り口を入って直ぐの右側に階段があるが、気力も体力も残っていない名前はその隣にあるエレベータへと迷うことなく向かって行く。開けるボタンを押してからの数秒、ドアがひどく勿体ぶる。素早く開けろよと悪態を頭の中で思いながら、中へと入る足取りはゆったりとしている。中にあった鏡に映る自分の顔は疲れ切ったものだった。まだ午前中だということがとても恨まれる。
無意識のうちに押していた4階のボタンが点滅し、扉が開く。ようやくたどり着いた安堵からか、足が重く感じられる。さすがにここまで人は来ないらしい。下の階や外とは比べようもないほど静かだった。エレベータを降り、目の前の廊下を進んでいく。一つ二つ、五つめの扉が見えてきた。やっと、やっと戻ってこれた。思い扉を開けて、自分に宛がわれた席を目指して最後の力を振り絞る。

 するとどういうことだろう。白石が椅子で作られた棺桶に入っているではないか。

「んもぉー。勝手に殺さないでえ?」

 キュルンと効果音のつきそうな、白石曰く「少女漫画風」の声に苛立ちが増す。他のゼミ生の椅子を五つも使って寝そべったまま、気色の悪い声を出した白石。ここのゼミ生は5人。全ての椅子を使われている。早く座りたい。

「座りたいんだけど」
「んんんん〜もう60分」
「一時間も待てるか。椅子返せ」
「俺が寝れなくなっちゃうじゃん」
「いいから返せ」
「やだ〜〜〜」
「・・・・・・」
「もうちょっといいじゃ・・・・・・ぅお?!」

椅子を返してもらおうと揺らしていると、寝そべっていた白石が驚いて上半身を上げた拍子にバランスを崩した。右に傾いた状態のまま、白石は床へとダイブした。

「・・・・・・・・・ふぅ」

 私の近くにあった椅子を自分のものにし、入り口近くの自分に宛がわれた席で寝る体勢に入る。慣れないスーツを着ているからか、上手く肩があがらない。ジャケットを脱ぎ、腕を枕にしてデスクに突っ伏す姿は過労気味のサラリーマンのようだ。すると私の右後ろから声が聞こえた。

「なーにそんなに疲れてんの?」
「・・・・・・・・・」
「お疲れだねぇ」

私が手を貸すなんてことは、端から期待していない。特に文句をたれることなく、見るからにグッタリとしている私の具合を心配してくれている。

「今日コンテストじゃん」
「うん」
「宣伝してたんだけどね」
「うんうん」
「いっぱい知らない人に話しかけられて」
「だろうなあ」
「ずっと歩きっぱなしで」
「うわあ」
「写真も沢山撮って」
「がんばったね」
「うん」

うっとうしい男ではあるが、白石というやつはどこか憎めないやつだった。研究室に入った時の腹立ちなど忘れて、すっかり弱音を吐いている。

「杉元くん、彼女できたんだって」
「・・・へぇ」
「疲れた気がする・・・」
「いや、見るからに疲れてると思うけど・・・。名前ちゃん、杉元のこと好きだったの」
「んー」
「ねえどうなの」
「友達としてはー」
「・・・じゃあなんで、」
「先越されたと思うと悔しいじゃん」

もうやだよー、つかれたよーと泣き言を呟き、本格的に寝る体勢に入る。どうせコンテストまでには時間があるのだし。むしろ出なくてもいいんだけどね。

「好きな人いたの」

 白石君が問いかけてきた。いつもの明るい声とは違う、酷く抑揚のない声だった。ぶっきらぼう過ぎただろうか、私の返事は。そういえば、さっきから会話はしているけど顔は見てないなと思い、腕の中に埋もれていた顔を上げて声のする方へと視線を向ける。

「何でそんな気になる・・・・・・どうしたの」

ずっと立っていたらしい白石が、今まで見たことのない表情で私を見ていた。悲しみか焦りか。まるで私に好い人がいたら困るような雰囲気だ。

「名前ちゃん、かっこいいからさ。色んな人に人気じゃん。俺、他の奴らに取られちゃうんじゃないかって心配で」

彼が音もなく私へ近づいてくる。冷たいものが、私を包んだ。

「だから、ね。俺と付き合うと今すぐ彼氏できるし、ずっとここにいられるし。コンテストも休んじゃえ!」

独りでに研究室の扉の鍵が閉まる。早く彼は目を覚まさないだろうか。
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