一目惚れ
※基本モブ目線です

俺は恋をしてしまった。
相手はあの安倍晴明の愛弟子であり、禰宜様でもあるみこ様だ。
彼女を初めて見たのは、雨乞いの儀を行う時だった。
俺の村はちょうど宮司様も巫女様も入れ替わり、初めて執り行うこととなっていた。
前任の宮司様は病気で寝込んでおり、巫女様は地方へ派遣された。
つまり、内情を知っている者が一人もいないまま向かうことになる。
経験も少ない者たちだけに任せるのも心許ない。
しかし宮司様自身が立って指導することはできない……
ということで、都に手伝いの便りを出したところ、禰宜様がいらっしゃることになった。
噂でしか聞いたことのない存在。
禰宜でありながらも陰陽師として、術を扱い式神を従えているという。
安倍晴明の名が有名なだけあり、信頼はとても高かった。

そうして雨乞いを行う四日前に、牛車に乗ってやって来た彼女。
彼女が降り立った瞬間、俺は心を掴まれた。
そう一目惚れというものだ。
身分が違うことは分かっていたとしても、惹かれてしまうのだ。

「村の皆様、お初にお目にかかります。都から参りましたみこです。この度はお呼びいただきありがとうございます。」
「お待ちしておりました、私が村長です……」

村長が彼女に案内している間も、終わった後も俺は禰宜様の事ばかり考えていた。
艶やかな髪に健康的な肌…温かい笑みに繊細な手つき。
親しみを感じさせながらも優雅な雰囲気。
こんなにも心揺さぶる巫女が今までいただろうか?

「おいおいおい!あんたぁ!どこまで掘ってるんだ!」
「す、すいやせん!」
「なんかいつもと違うぞ?……ははーん…今日来た禰宜様に現を抜かしてるな?」
「う……そ、そーです…禰宜様とても可愛らしいお方やったでしょぅ。」
「まぁ確かにな…あんたも若いからな、惚れてもおかしくはない!」
「い、いやぁ…見惚れるのも許されんだろうよ。」
「そんな事はないだろう?禰宜様も小さな村から来たお人だそうだぁ。つまりわしらと一緒ってことさ。」
「へぇ?!そ、そうやったんですかぁ…」
「ははは、暇があれば話でもすりゃぁいい。」

あんなにも気品があるのに、近く感じるのは俺達と同じ立場だったからか…
遠い都から来た彼女のことは、全く知らないに等しい。
それにこういう時でもないと、あんな可愛い子と話なんてできないな。
叔父さんも背中押してくれたんだ、明日は機会を狙ってみよう。
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