実情
「ふぅ……牛車に乗って来るだけでも、ちょっと疲れちゃうな。」
「お疲れさん、明日からは用意で忙しくなるな。」
「うん……あ、約束は忘れてないよね?」
「あぁ、もちろん。人の前で姿を絶対に見せない、だろ?」
「うん、ちゃんと守ってね?ついて来てくれるのは、心強いけど…」
「安心しろって、元から俺達は不用意に人の前には立たねぇよ。」
「冥界の役人だから…?」
「そう、俺が見えるって事はそいつの死期が近いって事だからな。例え現世に立てたとしても、理由なく姿が見えるのは、相手にとっては良くねぇんだよ。」
「でも、いつも都では平気で歩き回ってるくせに…」
「それはみこがいるから。それに晴明のお墨付きも貰ってるからな!」
「そっか……取り敢えず今日は一緒に来てくれて、ありがとう。寂しくないし、お仕事も頑張れそう。」
「なら良かった。俺はお前の旦那でもあるんだからな?いつでも頼れ。」

広い胸元に抱きつけば、優しく抱きしめてくれる。
落ち着く匂いに包まれて、とても安心する。
村の人が用意してくれた小屋に、布団を敷いて黒無常とお話をする。
別小屋を用意してもらったから、気を遣うこともない。
雨乞いの手伝いだけとは言っても、用意することはそれなりにある。
それに段取りも覚えてもらわないといけない。

「俺はずっと影から見守ってるから、安心して過ごせ。」
「うん、いつもお世話になってますっ。」
「ふ……あぁ、そういやさっそくお前の事を気に入った奴がいるみたいだぞ?」
「…?」
「もしかしたら口説かれるかもなぁ?気に入らねぇなぁ…」
「やきもち?ふふ、大丈夫だよ。」
「呑気なやつめ…俺はいつも肝が冷えるってのに。」
「無常の事が大好きだし…それに何かあっても絶対に助けてくれるでしょ?」
「ん………もちろんだ。」
「えへへ、照れちゃった?」
「う、うるせぇな………みこも不用意に触らせるんじゃねぇぞ。」
「うん、気をつける。」

他愛ない会話をして、明日からの作業に備えて早めに眠りにつく。
慣れない地であっても、黒無常が一緒にいてくれるから不安もない。
一人でいるわけじゃないから、しっかりとやるべき事にも向き合える。
ただ、黒無常にやきもちを妬かせる人がいるのが気になるなぁ。
私もまぁ…ここの人と少しはお話できたら良いな、って思ってるけど…
でもその人に告白されても、もう婚約してるって言えば良いんだよね。
2/11
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