本当は…
朝起きてからとても憂鬱だ。
黒無常に堂々と宣言されて、元気でいられるわけがない。
うぅ…練習長引かせようかな…
でも悪いところもないのに、長引かせるなんて失礼だよね…
でも、もうすぐで終わっちゃう……
宮司さんが凄く頑張ってきたのは伝わった。
はぁ…私情でその努力を否定するわけにはいかない。

「凄いですね!こんなにも仕上がるとは思いませんでした!」
「何せこれからは私が村長と並んで、村の代表となるんですからね。」
「そうですね、代表がしっかり者であると村も安心ですからね!」
「明日も最後までやり遂げて成功させます!」
「そうなると、今度は宮司さんが誰かに教える番になる時が来ますね!」
「いつまでも教わる身ではない…今度は教える側…ようやく宮司になった実感が湧いてきましたよ。」

明日の正午に向けて、意気揚々と語る宮司さんがとても逞しく見える。
別れを告げて黒無常がいそうな場所を探している時、声をかけられた。
この前お話した男の人だ。
この人とお話をして時間を潰したいけど、絶対にどこかで見張られている…

「あ、あ、あの、禰宜様のこれからのご予定は…」
「この間お話した方ですよね?もう一度お話したいのは、山々なのですが…」
「は、はい…」
「えっと……ちょうどこの近くで晴明様の方から依頼された用件…があって…」
「そ、そうでしたか……そ、その…邪魔はしないので、見学だけでも…」
「それは駄目です!陰陽師と共に行動するのは、危険と隣り合わせですから。」

嘘までついて、本当にごめんなさい!
頭を下げて、逃げるようにその場を去る。
黒無常はどこだろう…
私の方が主で従わせる方なのに、いざとなると逆らえない…
問い詰められれば、私の方が負けてしまって…
主失格だと思う程に惨めな姿をしているのは、自覚している。
だけど…そんな無常に依存してしまっている…
今だって……これからされるであろう事に、どうしようもなく期待してしまっているのだ。
木々が茂って薄暗い中、姿を探していると背後から口元を塞がれて引き込まれる。
混乱して暴れて抵抗していれば、視界も奪われた。

「静かに…俺だから安心しろ。」
「……くろ…むじょ…?」


昨日も手ほどきしているのをずっと眺めていた。
明日の雨乞い実演に向けて、早めに指導を終える事も聞いていた。
だからこそ、今しかないと飛び出したものの断られてしまった。
でも、俺はその陰陽師として働く彼女の事も見てみたいと思っていた。
好きな女がどんな人物であるのか、全部知りたいのは当然のことだろう。
小走りで林の方へと向かう彼女の後を、迷いなく追いかけた。
もしもこれで死んでしまったとしても、仕方ないだろう。
どうしても彼女の事が知りたいんだから。
6/11
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