「みこ、本日はありがとうございます。」
「御饌津様こそ、私をお呼びくださりありがとうございます。」
「早速なのですが……」

本日はどうやら稲荷神社への奉納の日だが、良い宮司も見当たらなかったらしく、御饌津様は私に声をおかけになった。
まだ見習いなのに良いのかと思いながらも、信頼されているのだと思い、引き受けた。

「そう堅くならなくて大丈夫ですよ。」
「今日は御饌津様お一人ですか?」
「荒様はこういう行事がお嫌いみたいで…でも私は民の声を聞くのが使命です。私が居なくては意味がないですからね。」
「荒様は極度の人間嫌いですもんね…」
「おや、誰か来たみたいですよ?私は一旦引きますね。」

鈴の音が鳴ると御饌津様は何処かに行ってしまわれた。
歓迎に来た村の人達に挨拶をし、奉納物を確認する。
何処かで見守っているだろう御饌津様へ奉納していく。

儀式も終わり、この後は神輿を担いで、来年の豊作を願う祭りを見ないか、と誘われる。
今日はここの依頼しか引き受けてないので、好意に甘えて見ることにした。

「わぁ…凄いですね…!」
「どれもこれも稲荷様のおかげです…」

祭りの前に皆で収穫した物を振る舞う宴に上がり、並べられた物に心奪われる。
稲荷神ともあって米粒は輝き、どの料理も神秘的に見える。
黒豆を一粒口に運べば、甘くとろけてとても美味しい。
これが神様の力…

「ここの民はみな良い人ばかりです。」
「御饌津様がとても良い方だからですよ。」
「それを言えば風神様もですよ、噂では神社が朽ちてしまい、氏子もみな村から離れてしまったとか…」
「……えぇ、あの場所は水害も多く、でも一目連様は風の神だったので…」
「高原の方達は何をしていらしたのでしょう?」
「分かりません…もう一目連様は神ではなく妖になってしまいました。それでも優しい事に変わりはありません。」
「…私も記憶を失う前と変わっていないと良いのですが…」
「御饌津様は立派に神としての役割を果たしていますよ!」
「なら…良いのですが…」
「御饌津様も祭りを見ましょう。ここの人達は本当に幸せそうですよ。」
「………えぇ…そうですね…民達の顔を少し見てみます。」

暗く影を落とした表情が少し和らぎ、ほっと一安心する。
集会所では着々と祭りの準備が行われている。
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