提案
無常様はお忙しい中でも、暇を見つけては私に会いに来てくださる。
そのおかげで寂しさも紛らわせる事ができて、一つの楽しみにもなった。
晴明様から無常様も私の式神にするのはどうか、と提案していただいた。
だけど、そうなると私は上司となり、命令する立場になれてしまう。
私はまだ彼らにそんな大きな態度を取ることなんてできない。
陰陽師としてもまだまだだし…

「巫女さん!晴明からあんたの式神になってやれって言われたぞ。」
「へ…!せ、晴明様ったら…」
「俺は直接あんたの力になれるなら、これ程嬉しいことはないと思ってるんだがな。」
「…!」
「どうだ?契約するかどうかは巫女さん次第だからな。」

まさか黒無常様から前向きな返事をいただくとは思わなかった。
黒無常様のお気持ちを汲み取るべきだろうけど…

「どうせなら、弟も一緒に契約したいよな!まぁ弟も頷くと思うけど。」
「で、でも…私、黒無常様にはたくさんお礼しなきゃいけないのに…」
「ふむ、俺のお願いを聞いてくれるのも、お礼に入るんじゃあねぇのか?」
「……黒無常様がそう言うなら…」
「ぜひ、俺達を巫女さんの式神にしてくれ。」

両手を握られて、見つめられながらお願いされる。
どきっとして、顔が熱くなる。
これで断る方がよっぽど度胸のいることだ。
無常様のお力を借りることができるなんて…
それが出来ればとても心強い。

「本当に…良い、のですか…?」
「あぁ、契約すれば傍で守ることができる。」
「…じゃあ今度お二人で来た時にでも…」
「おぉ、本当か!嬉しいなぁ、あんたの力になれるのは。」

にっこりと笑う黒無常様に、またどきどきしてしまう。
私もこんなに強くて頼りになる人に守ってもらえたら、とても安心出来る。
あの夜のことは未だ怖くて、夢に出る。
ふと不安になって目が覚めた時に、この屋敷内で寝泊まりする犬神さんの元へ。
そして大きく優しい手で頭を撫でてもらいながら、温もりを感じて眠る日もある。
式神として召喚できる位になれば、紙人形を呼び出して寝ることもできる。

「まだ、あの日のことは思い出すのか?」
「…はい……」
「そうか…大丈夫だからな。ここにいれば、そんな恐怖心もだんだんなくなっていくさ。」
「………」
「もう少し俺と付き合ってくれるか?」
「はい…私は大丈夫ですよ。」
「ん、じゃあ隣座らせてもらうぞ。」
「は、はい…」
「緊張するか?本当にあんたは男に慣れてないんだな!」
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