捕獲
俺の名前は黒無常、傭兵団の頭領だ。
この地域は職につくのが難しく、元気のある奴は傭兵になるのが一番手っ取り早い。
傭兵になれば実力がなくとも、金を払われて雇われる。
俺がどうして傭兵になったのか、今じゃもう覚えてないが…
そうだな、お前が言うようにたくさんの女は群がったさ。
頭領ともありゃ、その金と首を目当てに気に入られようとする女が集まった。
俺を雇ったと思えば、皆服を脱ぎ始めて腰を振りやがる。
俺はそんなことをしたくて、傭兵をやってるわけじゃない。
お前のように、困り果てて救いを求める人に、手を差し伸べる存在になりたいんだ。

「…その、悪かったな…いきなり、押し倒して…自惚れてたみたいだ。」
「………」
「お前が暮らすのに、困らないだけの金と住む場所は用意してやれる。だから…俺のことは忘れろ。」
「…………」

ここで私が本当に何も言わなければ、彼とはきっと二度と会えないだろう。
それが何故だかとても寂しく思えた。
そして、もっと彼の事を知りたいと感じていた。
自分でも分からない、彼は…黒無常さまは怖い人だとさっきまで震えていたのに。

「…行かないで。」
「…!」
「お願いします…私を、一人にしないでください…」
「………」

話を聞いていて、黒無常さまも独りなのだと気づいた。
首を狙われる程の頭領ならば、信用出来る人も限られる。
色んな人と知り合っているはずなのに、安らげる場所はほぼないに等しいんだと。
私は黒無常さまの優しさに救われ、安らぎを感じた。
なら、私も…彼に安らぎを与えられるのなら…

「黒無常さま…私を……抱いて、くだ…さい…」
「…あのなぁ…そんな怖がりながら言われても…」
「でも…だって…!黒無常さまも、一人じゃないですか!」
「…!!」
「私は黒無常さまに助けられました…!だから、私も黒無常さまを助けたいです!」
「………やっぱ…好きだ………諦めきれなくなった。」

立ち去ろうとしていたのをやめて、ギシリと再び私の上に覆い被さる。

「……本当にいいんだな?」
「………黒無常さま…私の名前はみこです…」
「みこ、か……俺の嫁になるのに相応しいな。」

そっと唇を重ねられた。
触れるだけのキス。
手袋を外し、素肌同士で指を絡めながら手を握る。

「初めての男、なんだよな?」
「…はい…」
「俺に身を任せてろ、力むことは無い。感じるままにいればいい。」
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