奪略
ようやく解放された頃には、涙が滲んでぼんやりと顔を見つめることしかできなかった。
息を整えている間にもベッドの上に押し倒され、首元に息を感じる。
カプリと首を食まれる。
手は胸元を撫でていて、本能が危ないと警告を出す。

「わ、私…!初めてのキスだったのに…!!やめて、ください…!」
「…!…箱入り娘か…?大丈夫だ、悪くはしない。」
「やだっ…!やっ!触らないで…!」
「お前は俺に抱かれるんだ、諦めろ。」
「んんぅっっ…?!!」

ジタバタと暴れる私にまた口を塞いできた。
指を絡めながら手をぎゅっと握られる。
声をあげたくてもくぐもってしまうし、出そうとするだけ頭がクラクラしてくる。
声を出す元気もなくなってきたところで、離れる。
少し呼吸したところでまた塞がれる。
嫌…こんな…私の気持ちを無視してくるのに……
でも…キスするの……気持ちいい…
じっくりと口の中を堪能されたところで、ようやくまた解放される。
耳元で囁くように話しかけられる。

「お前にも俺を好きになってもらいたいんだ……」
「はぁ…はぁ……は…」
「無理矢理するつもりはない。」
「……ふぅ……でも…こんな…の…」
「そういや、名前知らなかったな…俺の名前は黒無常。お前の名前も教えてくれ…」
「……………」
「だめか…?少しは信頼されてたと思ったんだがな…」

黙る私に自笑しながら、離れていく。
分からない…彼の本当の気持ちが。
優しい人だと思っていたけれど、警戒心が再び前に出る。
ただ泣いていた女の子に声をかけて、契約を持ち出し…
任務が終われば、体を求めてきた。
もしかしたら、そうやって何人もの女の人と体を重ねたのではないか?
そんな考えが脳裏を過ぎる。

「他の女の人にもこういうこと、しているんでしょうっ?」
「……そう思われても仕方ないな…」
「あなたのこと、優しくていい人だと思ってたのに…」
「…俺は優しくも、いい人でもねぇよ…」

自分の声が震えているのが、分かっていながらも言わずにはいられなかった。
追及する私に、落胆する肩。
惑わされてはダメ。

「うん……俺のこと、お前に話そう。聞いてくれるか?」
「……」
「いや、聞き流してくれたらいい…」

寂しそうに笑いながら、彼は自分自身のことについて静かに語り始める。
その姿に心が揺らぐ。
『俺は嘘はつかんぞ。』
出会った時、彼は確かにそう言っていた。
話を聞いてからでも遅くはないだろう。
彼の言葉に耳を傾けた。
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