第一
「ミコ、救命医になってくれないか。」
「救命医に…?」
「って言っても俺たちの怪我に対する応急処置の話だ。」

桜備兄が信頼できる人だけを集めて、ようやく結成された第八特殊消防隊に私もスカウトされた。
理由は簡単、幼い頃からの知り合いだからだ。
出会いは私が小学生なりたての時に、一人でいたのを桜備兄が声をかけてくれたことだった。
うまく馴染めないでいる私を見て、放っておけなかったのだろう。
ただ、おれのことは兄ちゃんって思ってくれたらいいよ!と。
そう言われた時はとても救われて、ヒーローに見えたことはよく覚えている。
そうして話をして帰るとなった時、これまた偶然にも家が隣同士だった。
あまりの偶然に驚いてしまったのだが、それも重なって本当の兄のように慕うようになった。
だから桜備兄が消防官になると聞いた時は、私も背中を追いかけようと思ったのだ。
女性が消防官になるのはかなりの高い壁だったが、何とか乗り越えて着任した。
あの時の桜備兄の顔はいつまで経っても忘れられない。
出会いの神様がもしかしたらいるのかもしれない。
この国が狭いとは言え、たくさんある消防隊の中でも同じところに派遣された。
と言っても新人だったから、出動の際はただ見てるだけだったけど。

「まぁ火縄も茉希も能力者だから、実質俺だけのための、って感じだけどな。」
「……うん、なるよ。力になれるのなら何でもする!」
「ありがとう、頼りにしてるからな!」

大きな手でわしゃわしゃと頭を撫でる手が心地よい。
ただ見てるだけの存在から、桜備兄の力になれる。
それがどれだけ嬉しいことか。

「よし、こうなったら勉強しなくちゃ!」
「お、じゃあうちの部隊の医務員はミコに決まりだな!」
「うん…でも怪我をせずに帰ってきてね?」
「…、…そうだな、それが一番だ。」

そうして私は事務員かつ医務員の役を務めることになった。
特殊部隊で能力者とは言え、この力を使うことへの抵抗を配慮してくれたのだろう。
この能力が治療に特化していたのならどれ程よかったか。
だけど授かってしまったのだから仕方がない。
傷つけてしまうのなら、使わなければいい話なのだ。
救命医になれ、と言われたのは良いが基本的な救急処置しか知らない。
色んな本を探し、試験を受けて免許を持つことをまず目標とした。
筋トレする大隊長と頭を抱えて唸る私に挟まれた火縄は、あまり落ち着かなかったかもしれない。
努力の甲斐もあって無事免許を取り、正式な医務員になったのだった。
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