第一
「うわぁぁぁっっ!」
「わぁぁぁぁ??!!!」

ドシンッ!
またタマキちゃんの『ラッキースケベられ』る体質が発動したようだ。
見事にシンラくんの顔にお尻が乗っかっている。
大変そうだなぁ…
と、他人事のように眺める。
火縄に頼まれていたコーヒーのおかわりをお盆に乗せ、運ぶ。
普段通りに歩いていた、つもりだった。
キュッ!

「へっ…?!」

また何もないところで躓いてしまった。
私もまた所謂『ドジっ子』体質で、よくコケたりはするのだけど……
その一瞬はスローに見え、持っていたお盆とコーヒーが頭上へと消えていく。
そして渡そうとしていたから間近にいる火縄がこちらを振り向き、驚く。
そこで急に体感時間が戻る。
パリ-ンッ!カンッ!ゴロゴロゴロ……

「……いた…くない…」
「…………」

咄嗟に目を瞑っていたのを恐る恐る開いて見渡す。
いつもなら体が地面にぶつかる衝撃に膝がヒリヒリする感触が訪れるのに…
少しの間ポカーンとしていた。
皆がこちらを見ている。

「ミコに……移った…?!」
「え?」
「ミコ、下を見てみろ。中隊長が。」

アーサーくんに言われ、下を見れば谷間に挟まった火縄の頭頂部が。
気づけば、私も『ラッキースケベられ』ていた。
顔は丁度胸に収まり、右手はお尻をガッツリ掴んでいた。

「ふぇあぁぁっっ?!ご、ごごごごめんなさっ!きゃぁっ?!」
「ミコ、気をつけ……」

慌てて飛び退いたせいで、今度は尻もちをついてしまった。

「いてて……、………えぇっ?!や、やだ!!見ないで!」
「………」グッ

今度は下着が丸見えどころか、火縄に見せつける格好になっていた。
慌ててスカートを引っ張りパンツを隠す。
真顔で親指をたてている火縄に更に顔が熱くなる。

「もしかして…本当に移ったんじゃ…」
「移ってますね…」
「ミコ…私が、私と仲良くなったばっかりに…!」
「タ、タマキちゃんのせいじゃないよ!私、昔からドジっ子だから…」
「いや、どう考えても移ってるぞ。」
「皆で移ったって言わないでぇぇ!!」

これはたまたま!偶然!ただの事故!
気を取り直して割れたコップを回収するために、箒と塵取りを取りに振り向いた。

「おい!ミコ!後ろめくれてるぞ!」
「ひえぇぇっ?!!もういやだぁぁ!」

桜備兄に指摘され、慌てて廊下へと走り出る。

「あの…そろそろ退いてくれないか…」
「…へっ?あっ!ご、ごめん…」
「間違いなく伝染してたわね。」
「不本意なことばかりが起こっていて可哀想です…」


気を取り直して箒と塵取りを手に戻り、片付けをする。
そして何事もなく、回収し終えた。
ほら、やっぱりただの偶然!
もう一度コーヒーを作り直し、一歩一歩丁寧に歩き運ぶ。

「お待たせしました、おかわりどうぞ。」
「あぁ、すまない…」
「ひゃあっ?!」

置いたコップを取ろうとしただろう手は、私の股下に吸い込まれた。
あ…と言いつつ、太ももをついでに撫でる火縄に思わず、平手打ちしてしまった。

「悪く、ない……」
「やっぱり移ってた…」
「うあぁぁぁ…!ミコ、ごめんーー!」
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