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人が行き交い賑わう町の通り。さくらはひとしきり用事を済ませたあと、通いなれた店の前で、その旦那の名を呼んだ。

「黒木さん」
「あれ、さくらさん。今日はお越しくださったんですか?」「はい。用事の合間に炭を少しいただこうかと思って来ました」
「わざわざ?こちらからお届けしますよ。距離も遠くないですし」「本当に?」「昼過ぎには持っていきますから。あ、遅いかな?」「ううん。大丈夫。いつもなら昼までは足りるので。ありがとうございます。黒木さん」

彼は多忙のようで炭を積んだと思えば、帳簿を見ながら筆を動かして、時折さくらを見ては申し訳なさそうにしていた。

「では、またお願いしますね」
「はい。毎度ありがとうございます。・・・あ、庄二郎その炭は竹田屋の−」

さくらは宿屋を営む亭主の女中である。なかなかに広い宿で主に寺参りや旅人、僧など様々な人々が訪れる。炭も調理や暖房など、大量に使うことも多く、黒木屋の常連とも言えるのであった。

さくらが宿に戻ると、入り口の門に大勢の僧、というより山伏の後ろ姿が目に入った。この辺りは霊山もあり、山伏が来ることはおかしいことではない。

「でも、ちょっと人数多いかも」

「さくら!ちょうどよかった。遣いが終わってすぐで悪いが、食事の下準備と部屋の用意に入ってくれ。今晩は忙しいから」
「はい。すぐいきます!」

さくらはいくつかの空いた部屋を整え、その後食事の下ごしらえに野菜の漬け物をとりだし切り分け、かまどを炊くために米をとき水に浸けた。炭を入れようとして、はたと気がつく。

「でも今日はたくさん使うのね。炭が少ないかも・・・」

やっぱり、自分がとりにいけばよかったかもしれない。さくらがそんなことを思っていると、他の女中から声をかけられる。

「さくら、黒木さんがきなすったわよ。ここはやっとくから、炭をもってきとくれ」
「ちょうどよかったです!いってきます」

さくらはさっと台所を抜け、宿の離れにむかう。そこは裏道となっており、いつものように黒木屋の旦那が炭の台車を引き、待っていた。

「や、さくらさん。お待たせしました」「すみません黒木さん。忙しいなか来ていただいて」
「大丈夫ですよ。ここの宿はずっとご贔屓にしてくださってるんですから。それにしても今日は賑わっていますね」「ええ、修行僧の山伏の人が大勢来てるんです」「へぇ・・・大勢?」
「届けてくださってありがとうございます。・・・黒木さん?」

黒木屋はぼうっと椿亭の部屋をみている。そしてふと私をみて、意外な言葉を発した。

「あの、突然ですが私もここに泊まっていいですか?」

突然の問いかけにさくらはその意味をとっさに理解できない。確か彼の店までは歩いてそんなにかからないであろうのになぜ?

「泊まるって、椿亭に?」
「うん。だめかな?」
「そ、そうですねぇ。部屋は空いてないかも。何分大勢なので」
「そっか、でも確か君って椿亭に住み込みで働いていたよね?」「えぇ。すこし古いですけど、離れに部屋があって、そこに住み込みでいますけど」
「じゃあ、君の部屋に泊まっていいかな?」

黒木屋の言葉に、彼女の思考は混乱する。目をくりくりさせて、落ち着きのない様子で黒木屋に聞き直した。

「く、黒木さんが私の部屋に!?」「一晩でいいんだ」
「だめ!だめですよ!男の人を連れ込んだなんて知られたらわたし暇をだされます!」
「へ!?男の人をを連れ込む?」
驚いた黒木屋はきょとんと見つめてくる。やっと言葉の意味を理解して彼は首をぶんぶんと振り弁解した。

「ごごご、ごめん!僕はなんて失礼なことを!気分悪くしてないかい?」
「大丈夫です・・・。でも何で急に椿亭にとまりたいんですか?」
「・・・そうだな。君、ここの噂をしってるかい?」「噂?」「いや、知らないならいいんです。さっきの忘れてください。では、炭も届けましたし、私は次の取引先に行きますね」
黒木屋は炭の積んである台車を引いた。さくらは改めてお礼をし、その姿を見送った。

「びっくりした。黒木屋さん、たまにすごいこと言うなぁ。それに最後のあの言葉・・・なんだったのかしら」

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