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「じゃぁ、私はこれを持ってお祓いに行ってくるから」

「はい。店は私が見ておきますから・・・いってらっしゃいませ」

川村堂の店主源四郎は清常定の写経本を包んだ風呂敷を手に、川村堂を出ていく。一人残されたすみれは、ひんやりと静まり返った川村堂の中で、誰かに見られてるような恐怖を感じていた。

(一人怖い〜!けどお留守番しなきゃ・・・)

がたり、と音がしてすみれとっさに身を縮める。その音は店のなかに入ってきた平太が戸を開ける音だった。

「ひっ・・・って平太くん?」
「すみれちゃん・・・?一人・・・?」

平太は辺りを見る。すみれは誰かが来たことでほっとした。たしかに彼は暗くて陰気だが、まごうことなき生きている人間なのだからさっきまでのようにひとりぼっちではない。

「どうしたの?またお使い?」
「ううん。あのね、僕この上にある城にいこうと思ってる・・・」

その言葉を聞いてすみれは驚く。あそこはすでに落城したぼろぼろの城で何が潜んでいるかわからない。昨日の様子からして怖がりの平太がなぜそんなところに行きたがるのか、すみれは聞いてみた。

「僕・・・夢を見たよ・・・おじいさんのお坊さんがすごく悲しんでたんだ・・・僕が声をかけたら、瑠璃城にこいって・・・行かなきゃ」 
「ちょっと待って、瑠璃城?そこにいってどうするの?その人って何者なの?」

すみれの質問に平太は答えられなかった。相手が何者なのかも、何が目的なのか、本当にいる人間なのか・・・全く根拠のないことで平太はうごこうとしている。しかし彼は約束だからと行くことをやめなかった。

その様子を見てすみれも考える。あの城は廃墟とはいえ、危険なところだ。自分がそうですかとみおくって平太が帰ってこなかったら心地が悪い。彼は怖がりだし、心細くなるかもしれない。そう考えると無視はできなかった。まぁ単純に、ここに一人で居続けるのは嫌という気持ちもある。

「わかった!私もいく!どうせ御店に人なんか来ないし、平太くんが心配だもん」
「い、いいの?」

まさか、ついてくると言う反応が来るとは思わなかったので平太は驚いた。しかし、一人で行くのは正直不安だったため彼女の言葉に平太は勇気が出てきた。

「うん。一緒にいこ!私がいるからだいじょーぶ!」
「ありがとう・・・すみれさん・・・」

頼りない平太のために元気を出すすみれ。店を閉めて戸締まりする。彼と手をとりあって、すみれと平太は落城した城へと向かっていく。

城の門の前に立つ。壊れた門は開きっぱはしで二人は容易に入ることができた。すみれは平太の手を引き辺りを見渡した。

「ここ、落城したってことは、たくさん人が死んだってことよね・・・うう・・・怖い・・・」

平太の方を振り返る。彼は光の陰る竹やぶの方を見て、目をキラキラさせていた。ぐいと手を引かれてすみれは戸惑う。

「ちょ、ちょっと平太くん?」
「あそこ、日陰ぼっこによさそう・・・いってみようよすみれちゃん」

そういってなぜか嬉しそうに日陰の方へいく平太に、手を離すことが怖いすみれはついていくことしかできない。ここに来るまでは怯えていた平太だったが、暗いとこが大好きなようで夢中になって外を散策していた。

「ここも、ここもいいなぁ〜」
「へ、へいたくん〜!何が楽しいの・・・」

そうしてたどり着いたのは、腰まで草が延びきった広い場所。歩くのも大変で草をわけながら二人は進んでいく。すると、こつんとわらじに固いものがあたる。

「あ、これ・・・石?」
「・・・お墓だ!」

平太がなぜか嬉しそうに声をあげる。よく見ればこの辺りはたくさんのお墓が建っているようだ。とうの昔に手入れはされておらず草はこのように延びっぱなしで墓は苔や泥だらけで放置されたままだった。

墓と言えど墓石のような立派なものではなく、大きな丸い石が積み重ねてあるだけの墓で、名前すらもわからない。それをみて、平太は以前感じたような感覚を思い出す。

「ここだ・・・!」
「ここがどうかしたの?」
「夢でおじいさんが言ってたこと・・・。忘れるなって言ってたけど、ここの事かもしれない・・・」

すみれは改めて辺りを見渡す。この墓が立ち並ぶ荒れ放題の景色のように、誰も思い出さず忘れ去られてしまった故人がいる。

「私が言えたことじゃないけど、ここでたくさんの人が亡くなったこと、簡単に忘れちゃっていいのかな」

平太は繋いでいた手を強く握り、そして離した。その手で拳を握る。

「僕、あのおじいさんは写経を書いた清常定さんだとおもう・・・。すみれちゃん・・・僕たちがここのこと、知らせなきゃ・・・」

すみれはそっと頷く。その前に、と再び手を差し伸べた。

「ここをきれいにしてあげよう?このままじゃ、かわいそうだもの」

確か川村堂に道具があったはずだ。すみれと平太はこの辺りの手入れをすることにした。


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