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「よし・・・これで終わり!」
すみれは大量に刈った草を思い切り持ってきた台車に積む。彼らが墓の手入れを始めて、辺りはすでに夕方に差し掛かっていた。
すみれと平太は改めてその景色を見渡す。草も均一に刈られ、苔だらけだった墓も岩肌が見えて淡く美しく夕焼けに反射している。最初に来た時よりも墓地はずいぶん広く見えた。
「最後に、これ」
そうしてすみれが取り出したのは3本の線香。火打石と火口を取り出し、手際よく火をつけ線香を近づけた。仄かな香りを漂わせ、線香は灯りまっすぐ天に煙が起つ。
一際大きな墓石にそれを添えて二人は両手を手を胸の辺りまで上げて重ねた。
亡き人を偲び行く間にも、線香の火は燃え尽き、消えていく。そうして一通り終えた二人は暮れる前に帰ろうと、草を積んだ台車をひく。
「その草・・・どうするの・・・」
平太は道具を抱えながらすみれに聞く。
「うちの店の裏には畑があるから、肥料にするの!うちは貧乏だから・・・」
買い取ってばかりで一向に売れない川村堂の生活は倹約節約の毎日である。その話を聞いて平太は写経を思い出した。
「清常定のおじいさん・・・」
自分の行ったことは本当に良いことだったのだろうか?平太はそんなことを考えながら、川村堂にたどり着いた。ちょうど、反対側から川村堂の店主、源四郎も帰ってきた頃だった。
「おや?平太くんこんばんは。またきてくれたんだね・・・て二人とも土まみれじゃないか」
「源四郎師匠、ごめんなさい。私たちそこの瑠璃城にいってて」
瑠璃城と聞いた源四郎の顔色が変わる。そっと風呂敷の持つ手を変えた。
「二人であの城に行ったのかい?・・・まったく危険なことを・・・とにかく店に入ろう」
川村堂の扉を開ける。いつものしんとした店内。彼は店の机に腰掛け、その風呂敷包みをほどいた。
「この写経を書いた清常定は、当時勤めていた瑠璃城が落城し、生き残った彼は出家した・・・」
「・・・はい」
「彼は残りの余生を死んでいった兵士の供養に尽くすことを決めて毎日、こんな風に写経をしていたんだ。彼が亡くなったのは5年前。これは晩年、清常定が寝ずに書き起こした最後の写経本だ」
ぱらり、と源四郎はその折り本を開く。おぞましいぐらいにびっしりとかかれたお経。その文字に二人は目が離せなくなる。
「お祓いで陰陽師にこれを見てもらったよ、彼の想いが写経を手にしたものの心を捕らえ、死に追いやるのだといっていた・・・でも、」
源四郎はそっと折り本を閉じる。
「"もう無念は感じません"とおっしゃって、なにもせずに帰ってきた。君たち、瑠璃城で何をしたんだ?」
すみれと平太はお互いに顔を見合わす。もう無念は感じない、それは念が祓われたということなのだろうか。すみれは源四郎に今までのことを話す。それを黙って聞いた源四郎はそうか、と腕をくんだ。
「私が言うのもなんだが、ありがとう。きっと清常定は平太くんを見込んだのかもしれないね。でも・・・」
源四郎は厳しい顔になる。
「落城した城は山賊だっていることがあるんだ。今後は絶対二人だけで行っちゃだめだよ?」
「・・・そのお話について・・・ですが・・・」
おどろおどろしい震えた声がする。三人は誰も話していない、別の処から声がした。すると戸が開き、ぬっと鬼火が灯る。源四郎とすみれは言葉を失った。
「お・・・おばけーー!」
「斜堂先生!いらしてたんですか?」
平太がお化けのような男性の元へ駆け寄る。源四郎とすみれはもう一度、その男性をみた。足があり、影もある。
「お、お化けかと思った・・・」
「私も、ついに出たのかと」
斜堂はふふと微かに笑う。ぼんやりと暗い中、顔だけが浮かび上がり微笑んでるようで余計不気味である。
「はじめまして・・・私は忍術学園の平太くんの学年の担任教師をしています。斜堂影麿ともうします」
「忍術学園の先生?なぜここにいらしてたんですか?」
すみれの質問に斜堂は答える。
「平太くんが・・・瑠璃城に行くといっていましたから、心配で実はずっと・・・二人を見ていたんですよ」
「そうだったんですねぇ・・・全然わかんなかった・・・」
「平太くん、おじいさんとの約束、果たせましたか?」
平太は少し明るい笑顔で頷く。斜堂は源四郎にとある提案をする。
「この事を清常定さんが勤めていた寺に伝えてはいかがです?」
「そうですねぇ。ほかの僧にも彼の想いを伝えねばならないでしょう。そうだ、なら二人にお願いしようかな」
そういって源四郎は平太に風呂敷に包み直した写経を渡す。平太は突然託された写経に戸惑っていた。
「平太くん、君が体験したことや見たものを伝えてくれるかい?それで、それを渡してほしいんだ」
平太はじっと手にした包みを見つめて、瞳を閉じる。清常定の気持ちを思いだし、これは自分がやるべきだと平太も思った。
「すみれちゃん、ぼく・・・一人じゃ不安だから・・・一緒に来てくれる?」
「え〜・・・なんてね、これも勉強だし、ついていくよ!」
元気に笑顔で答えてくれたすみれに、平太はまた胸が高鳴る。彼女のしっかりして明るい笑顔に、なぜか平太は惹かれていた。
「う、うん。また明日、授業が終わったら来るから・・・」
そうして平太と斜堂は夜になる前に川村堂を去っていった。
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