はじまりの話



ここはくのいち教室の教員室。放課後の今、くのいち教室の担任である山本シナに呼ばれ、ある少女がどたどたと走ってやってくる。彼女は勢いよく戸を開けて頭を下げた。

「くのいち教室、小梅です。ただいま参りました!」

忍術学園くのいち教室で4年間学んでいる小梅。静かに茶を飲んでいた老婆の山本シナは小梅に前に座りなさいと言った。

「あの、私・・・なんでシナ先生に呼ばれたのでしょうか?」

小梅は今までを振り返ってみる。テストは普通、実技も苦手だがなんとか赤点は免れている。授業も真面目に聴いているし・・・なぜ個人的に呼ばれてしまったのか小梅はわからなかった。

それに山本シナの表情は固い。これは注意されるな、と小梅は身を縮ませる。

「小梅さん。あなた、自分が女性である自覚はありますか?」
「女性である自覚?」

シナの問いかけに小梅は首をかしげた。自分は農民生まれの田舎者だが、女である自覚は当然ある。そもそも、現にこうやってくのいち教室にいるのだから。

「私は女性です。自覚してます」
「そうじゃないの。私が言いたいのは、振る舞いのことです」
「振る舞い?」

そうです。とシナは頷く。

「小梅さん、貴方はとっても頑張りやさんで元気で良い子です。でも、少し女性としての振る舞いが足りません。例えば先程廊下を走る音、戸の開け方・・・もうすこし女性らしさを学ぶべきだと思いますよ」
「す、すみません・・・」

小梅はくのいち教室では人一倍のがんばり屋である。貧乏な農民の出身でありながら忍者になるためにくのいち教室に入り、授業は積極的、休み時間も勉強や鍛練に励んでいた。ただ少し不器用で要領があまりよくない一面があった。しかし周りの女の子達はそんは一所懸命な小梅の姿に励まされたり、応援したりしてもらっている誰からも好かれるような存在であったのだ。

「いいですか?よいくのいちというのは、立ち振舞いにも優れた者を言うのです」
「立ち振舞いにも優れた者・・・ですか?」

シナは一枚の大きな風呂敷を広げる。一瞬姿が隠れたと思いきや、風呂敷が床に落ちた時には老婆から若い美女へと姿を変えていた。姿形を変えたシナは静かにその場に正座する。静かにメリハリのあるその立ち振舞いに小梅もはっとする。

「周りのものがあなたを美しいと思うとあなたに対しての接し方も変わるものなの。小梅さんにはそれが決定的に足りていないわ。それじゃ社会に出てもくのいちとしてとても苦労してしまいます」
「おっしゃる通りです・・・」

小梅はシナに頭を下げる。小梅は今まで自分を美しく見せることや、まして相手からの目線など考えたことがなかった。それがくのいちに必要なものであるなら改めようと思った。

「あなたには女性としての立ち振舞いを学んでもらうために課題を与えます」
「はい!」

小梅の素直な答えにシナは笑顔になる。そして一枚の紙を渡された。そこにはかわいらしい花の絵と美しい文字で「お嫁さんシート」と書かれてあった。その意味がわからず小梅は顔をあげた。

「これはなんですか?」

よくみるといくつかの空白の枠が並んでいる。判子や署名を残すような空白だった。

「それはお嫁さんシート。あなたは今からこれをもってだれでもいいから忍たまや教員、その他男性からこのシートに署名をもらってきなさい」
「それだけですか?」

思った以上に簡単なルールだが、それでは先程の立ち振舞いの課題には関係ないのではないか?小梅がそう思っているとシナはこう続けた。

「サインをもらうには一言「私をお嫁さんにしてもよかったらサインをください」って説明するの」
「んっ??どういう??」

小梅の戸惑いを無視してシナは続ける。

「サインを貰えたら合格。もちろん多ければ多いほど評価します」
「いや、なんでお嫁さんなんですか!?」
「男性からみて素敵だと思われなきゃ周りは変わらないわ。それに女の子同士だと同情してしまうかもしれない。なのでお嫁さんにしてもいいな、て男性に思われる努力をしなさい?」

小梅は困ってしまった。忍術学園に入学してからは忍たま達との関わりはあまりなく、くのいちの忍術一筋の小梅にとって、それは非常に難関な課題に見えたのだった。

それに自分が相手の嫁になってもいいかなんて聞けるわけがない。どんな風にお願いしようと小梅は悩む。

「そういうわけで、今日の夜までにその課題を終わらせること。さぁ行ってらっしゃい」

「はいー!」

シナに急かされるように小梅は勢いよく教員室を出た。小梅は改めてそのお嫁さんシートなるものをみてため息をついた。

「取り敢えず、忍たまの学舎のほうへいこう・・・」

とぼとぼと小梅は忍たまの校舎へと歩く。シナの課題をこなさなればきっともっと重い課題を用意されるにちがいない。それはなんとしても避けようと小梅は意気込むのだった。



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