おしまいの話



小梅はくのいち教室の廊下を走る。途中で何人かのくのたまに出会い挨拶された。

「小梅先輩、こんばんはでしゅ」
「こんばんは小梅先輩」
「おシゲちゃん、トモミちゃん、ユキちゃん、こんばんは!」

あっという間に駆けていった見慣れた先輩を背に三人はくすりと笑う。

「先輩、かわいいわね!」
「無事に帰ってきてよかった〜」
 
年下にそんなことを言われているとは露知らず、小梅はくのいち教室の教員室の前まで来て勢いよく戸を開けた。そこには明かりがひとつ、灯されており、正座した若い山本シナがぼんやりした明かりのなか鎮座していた。

「大変遅れてしまってすみません!」
「・・・あのね小梅さん。遅れてしまったのはこの際よいとしましょう。それよりも放課後も言いましたよね?」
「放課後・・・あっ」

しまった、と思ってももう遅い。放課後も自分は同じように廊下を走り、戸を音をたててあけてここまで来た。そしてそれをシナに注意されたはずであった。小梅は慌てて謝る。

「すみません!つい・・・」
「まったく、そんな様子で補習はできたのかしら」

その一言で小梅はぱっと笑顔になる。握りしめていたお嫁さんシートをシナに渡す。

「いかがでしょうか」

シナはそこに書かれた名前を読み上げる。

「田村三木ヱ門、久々知兵助、潮江文次郎・・・たしかに名前があるわね・・・」

でも、と再び顔をあげて鋭い眼光を小梅にさす。その気迫はおおざっぱな小梅でも身がぞわりとするほどだった。

「本当に貴女を女性として認めて書いたものなのかしら?・・・例えば田村くん。これは恐らく学園長先生のお使いを協力してもらったもの。久々知くんは町の豆腐屋を手伝ったお礼として。潮江くんは学園の曲者騒動解決に協力して・・・そんなところかしら」

すべて当たりである。間違いない、シナは自分を初めから終わりまで監視していたのだ。補習の本来の目的は小梅がお嫁さんにしてもいいと思った男性がサインすることだ。女性らしく振舞い、気に入られることが目標だったはずである。
しかし自分はその目標から逸れ、相手と協力して、お礼にサインをもらうことが多く、根本的な努力はしていない。そこをシナに言われてしまったのだ。

「はぁ、おっしゃるとおりです・・・。やはりこの補習、やり直しでしょうか?」

身を縮めて小梅はしょんぼりしながらシナに聞く。シナは厳しい表情を変えずに小梅に言う。

「たしかに、普通ならやり直しです。・・・しかし」

シナはもう一度お嫁さんシートを見直してその名前を見る。監視している間、このサインをした彼らの様子をもう一度浮かべて、シナは笑顔を見せた。

「合格です」
「・・・え?」

小梅はその言葉に耳を疑う。首をかしげてもう一度シナに聞いた。

「ですから合格です」
「ええー!どうしてです?」

本来なら喜ぶはずだが、それよりも理由がわからない。シナは自分の補習の様子を終始みていたはずなのだ。あの自分の振る舞いをみてなぜ合格をくれるのだろうと疑問だった。

「確かに女性らしさから言えば貴女はくのいちとしてまだまだです。でも、それ以前に必要なのが常日頃の態度です。それは性別関係なく、一日では補えないものよ?」
「は、はい?」

小梅はその意味がいまいち理解していないが頷く。

「この場合は、女性という立場よりも貴方そのものを見たもらった結果ね・・・それはそれですごいものだし、忍術にだって生かせるものです。私はそこを評価しました」
「つまり──」

自分は女性としてはまだまだだが常日頃の態度を忍たま達が見ており、評価していたため信頼を得てお嫁さんシートのサインに繋がった・・・というわけだ。

「そういうことです」
「わーい!やったー!」

小梅は立ち上がりぴょんぴょんとその場を跳ねる。その姿にシナも苦笑いした。

「そういうところが問題なのよね・・・まぁいいでしょう!お疲れさま」
「あっ、シナ先生。おひとつ相談なのですが」

はっと喜びから我に返った小梅は万歳の姿勢のままシナに質問する。

「私、いままでくのいちの勉強ばかりで忍たま達のことなにも知らないなと思いまして・・・はじめてもっと忍術学園のことを知りたいって思ったんです。こんな気持ちってどうなのでしょう?」
「良いことです。もっといろんな人と関わることで、あなた自身が変わっていくことを期待します」

シナにそういわれ、小梅もいままでの自分を改めた。自分は一所懸命であろうと思うがあまり、視野が狭かったように思うが今回の実習で忍術学園には色んな者がいるとわかった。勉強では得れないものがあると感じたのだ。

「ありがとうございます!では失礼します!」

新たな目標も出来て、意気揚々と戸を開けそのまま走り去っていく小梅。反省のない様子にシナは少し呆れたが「本来の」目的はうまくいったようだ。

「女の子らしさなんてあとからついていってもいいじゃないの。もっと人とふれ合うことも、大切なのですよ。小梅さん?」

すでに小梅いなくなっている教員室で、シナはぽつりと呟く。これからもっと騒がしくなるであろう忍術学園の事を想像して、人知れず微笑むのであった。


おしまいの話 ー完ー




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