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「わっ…結構人がいるんだ…」「おい。離れるんじゃない」

下りた先の地下室に興味につられて離れようとした小梅を三木ヱ門は手をつかみ引き留める。
地下室といえど辺りは歩きやすく石畳になっており壁も石が組まれてできている。
辺りは多くの松明で薄暗く照らされており、まるで何かの祭壇のような形をしていた。そのなかに今回招待された一般人に
紛れた様々な城や権力者の使いが集まっている。その空間はまさしく異様であった。

「…私たちの後をつけてきた者の気配を感じる。気を抜くんじゃないぞ」
「うん」

三木ヱ門の言う通り、この寺に入った時から感じる視線がある。しかしこの人だかりの中でその視線が何者なのかは見極めるのは難しかった。改めて二人は集まった人たちを観察する。薄暗くて顔ははっきりとはみえないが身なりの良い男女や街で見かけるような商人の姿、笠を深くかぶった修行僧…とにかくいろんな恰好をしたものがごちゃまぜに集まっている。

「あ、さっきのおばあちゃんとおじいちゃんだわ」
「やはりここに招かれていたのか…」

二人は先ほどまで門で話した老夫婦の姿をみつける。相手もこちらに気づいたようで笑顔でこちらへと歩み寄ってきた。

「先ほどのお嬢さんとお付きのお方ですね。同じ目的でしたか」
「おばあちゃん体大丈夫ですか?よく階段をのぼれましたね」

小梅の心配に二人は朗らかに笑う。

「わしらは長年忍者やっとりますからの。年寄りと言えど体は丈夫です」
「すごい!尊敬します!」
「…」

小梅と老夫婦が会話をしている様子を隣でだまってみている三木ヱ門。彼はこの老夫婦がただの忍者ではないと疑っている。一見年寄りに見えるが実際は変装だろう。その歩き方やたたずまいはどこからどうみても老人であるが、反面それが怪しくもみえるのであったのだ。

「みなさまおまたせしました。本日は闇市寺にお越しくださいましてありがとうございます」

壇の前に現れたのはこの地下室へ案内した和尚だった。その後ろには布が被さった長物の何かが飾られていた。

「今回ご紹介しますもののいきさつをまずご説明しましょう。堺の武器商人が南蛮から預かった改良型の火縄銃。こちらを研究しておりました一人の鬼才の職人がおりまして、さらに独自の火薬の開発、そして銀の装飾を施した世に2つとない美しき銃が誕生しました」

「学園長先生がおっしゃったとおりのものだ!」

三木ヱ門が小さな声でつぶやく。滅多とみられない銃を見ることが出来ることに彼は一気に気が高ぶる。小梅は火器は詳しくはないが
忍者としてその威力は気になる所である。隣にいた老人がちらりと小梅を盗み見たが、彼女や三木ヱ門は銃に気を取られその視線に気づくことはなかった。

「いらっしゃったみなさまにも是非ごらんいただきましょう」

和尚は壇の後ろに回りその布をゆっくりと取り払う。その火縄銃は学園であるものとは若干形が変わっていた。
弾が通る銃の筒はほそく長くなっている。銃身を支えるための銃床は木製ではなく和尚の言った通り銀で作られており精密な唐草模様のなかに蛇の姿が彫られてあった。

「火縄銃にしては細身だな…銃口はどうなっているんだろう…!あぁ、触れてみたい!」
「三木ヱ門、私たちじゃあれは手に入らないと思うよ」
「わかってるよ!」

かすかにざわつくなか、和尚は続ける。

「本来なら威力をご披露したいのですがみてのとおりここは狭いところです。この品は軍事威力に多大な影響を及ぼす可能性もありますので、公には世に出せません。しかし威力のほどは確かであります。銃を撃たない者でも鑑賞にも十分の一品でございます。みなさまどうぞご覧になってください」

その銃をみた者がみな感嘆の息をもらす。銀で細工されたその火縄銃は松明の光を鋭く反射し光っている。そしてその装飾もまたとみないような美しく精密な描写に和尚の言う通り、見るにも十分なものであった。

「誰がこれを買うんだろ?」
「さぁ・・・」

二人がそんな会話をしていると老婆がしらないのかい?と見やった。

「もう買い手はすでに決まってるそうだよ。なので皆さん今回はこの銃を人目見ようと集まっただけなんじゃ」
「えー!購入者が何者かもわかんないなんて・・・後をつけてこうと思ったのに・・・」

三木ヱ門がそんなことをいっているのを聞いて苦笑いする小梅。残念ながら自分達はあの火縄銃を手にすることも撃つことも出来なさそうだった。

しばらく地下には人がたかっていたが、その火縄銃を見ると満足していった者達は帰っていく。食い入るように見ていた三木ヱ門も、ようやく納得したようで小梅の側へともどる。小梅は老夫婦と楽しく会話していた。

「待たせた。我々も帰ろう」

「三木ヱ門・・・買い手が誰かとか聞かなくていいの?」
「ああ。きっと教えてくれないだろうし・・・いいんだ」

そういって地下から出ようとする三木ヱ門、それを追いかけてきたのは和尚だった。

「三木ヱ門さん、お帰りになられては困ります。貴方にはこの、火縄銃を渡すお約束なのですから」

「え?」

小梅と三木ヱ門は和尚の言葉に声を揃えた。三木ヱ門はどういうことかと問う。和尚は話を聞いていないことを察した。

「この火縄銃は大川さまがご購入なされた物なのです。使いの生徒さんが引き取りにいらっしゃると聞いていますが・・・」
「ええ!!学園長先生が火縄銃をご購入したのですか!?」

とても驚いている三木ヱ門。どうやら彼は学園長に闇市寺の様子と火縄銃を一目見てきてほしいと言われただけらしい。困惑したのも一瞬、嬉しさが込み上げてきた三木ヱ門はわっとその火縄銃の元へと駆け寄る。

「あぁっ!!夢のようだ!まだ世に出ていない美しい火縄銃を私が触れることができるなんて!」

瞳を輝かせて三木ヱ門は改良型火縄銃を見つめる。和尚が銃を納める木箱を持ってきて銃を布にくるみゆっくりと納める。三木ヱ門がそれを受け取った。

「小梅!みてくれよ・・・ってあれ?」

振り返ると先程まで一緒に老夫婦と話していた小梅の姿が消えている。地下にはもう見物客もおらず、和尚と三木ヱ門の二人だけになっていた。



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