恋豆腐1



「めたつ」と刺繍された前掛けをつけ、うでまくりをしたいかにも、店員のようなかっこうをした見慣れた人物が二人の前に現れる。

三木ヱ門はおもわぬ所で学園の先輩を見かけたので少し驚く。
相手も三木ヱ門をみてあっと声をかけた。

「三木ヱ門じゃないか!なんでここにいるんだ?」
「久々知先輩こそ。なぜこの村に?やっていることは・・・見ればわかりますが」

忍術学園5年生の久々知兵助はどうみても繁盛している豆腐屋店員をやっている。彼は少し困ったような表情をして肩をすくめた。

「うん。見ての通りだよ。俺、ここのめたつ屋っていう豆腐屋の手伝いしてるんだ・・・君たちは・・・」

兵助はまじまじと二人を見た。その視線の意味に気づいた田村はあっと慌てて事情を話始める。

「あ、これは、学園長の任務の帰りなのです。くのたまの彼女と令嬢と護衛に化けてたんです。今は任務を終えてその帰りです」

「あぁ、そうだったのか。じゃぁ、うーん、仕事帰りじゃ駄目だよな。お疲れさま。気をつけて帰りなよ」

そういってめたつ屋に戻ろうとする兵助を小梅は止める。

「あの、先輩なにかお困りですよね?・・・ 三木ヱ門、私はあと帰るだけだし、先輩を手伝っちゃだめかな?」

小梅の言葉に三木ヱ門はそうだな、と呟き頷いた。帰りは彼女一人になってしまうだろうかと少し心配していた三木ヱ門だが、先輩であり、気遣いのできる兵助なら心配はないだろうと思った。

「わかった。私は先に帰っておく。久々知先輩、小梅をお願いします」

「ありがとう!助かるよ・・・」

そのまま小梅と三木ヱ門は別れる。残った小梅は改めて久々知兵助を見た。普段関わりがなく、お互い顔も見慣れていないが、噂は知っていた。

「貴方が久々知先輩・・・豆腐小僧さんですか?」
「ふふ、それは妖怪の名前だよ。俺は豆腐好きなだけ。そういう君は"あの"小梅さんだろ?」

「あの」という言葉に不安を覚える小梅。忍たまの間で自分が噂になっているということを知って小梅は顔がひきつる。

「わ、わたし何て言われてるんでしょう?」

小梅の問いに兵助は笑顔で答える。

「学園で一番の頑張り屋って聞いてるよ。皆君を尊敬してるよ」
「え、ええ!本当に?」

ほんと、と兵助は続ける。

「君はくのたまだけど忍たまをからかわないし、すごく真面目に頑張ってるから自然と元気が出るって生徒は言ってるよ。だから名前だけは聞いたことがあるんだ」

小梅は先輩である兵助にそう言われて少し照れてしまう。彼も一度小梅がどんな者か興味があったため、こうして会えたことを喜んだ。そんな話をしているとめたつ屋の奥から声が聞こえた。

「兵助、手伝ってくれるかい〜!」
「おっと、そうだ。話はあとから説明するから取り敢えず今は豆腐を売るのを手伝ってくれるかい?」

小梅は頷く。めたつ屋に入るとふわりと大豆の香りが立ち込める。ずっと釜を炊いてるらしく外よりも随分暖かい。台所の隣に大きな水の張ったタライ。そこには何丁もの豆腐が沈んでいる。

「俺が勘定をするから、小梅さんは豆腐をお客さんに渡してあげて」

みるとお客はみな持参した桶を持って来ている。小梅はそこに水と豆腐を渡せば良いようだった。奥で重ねていた着物を脱ぎ身軽な小袖姿になって腕をまくりたすきをかける。台所で組んであった水で手を洗うとひんやりとして気持ちがよい。小梅は気持ちを切り替えて兵助にいった。

「よぉーし、任せてください!久々知先輩!」
「あぁ、頼んだよ」

そうしてやって来た大勢の客の勘定をしていく兵助。彼に言われた数を用意して、最初はぎこちなかった豆腐の扱いも客を全員さばくころには手際よくなっていた。

「木綿2丁用意してくれ」
「わかりました」

最後の客の勘定を済ませて豆腐を渡す。丁度豆腐もすべて売り切れてようやく二人は息をついて落ち着いた。

「はぁ。終わったな」
「はい・・・ここの豆腐屋さん大繁盛ですね〜」

小梅がそういうと兵助はそうなんだ!と食いぎみで寄ってくる。
その瞳はきらきらと輝いていた。

「ここの豆腐屋さん『めたつ屋』さんは代々昔からある豆腐屋さんなんだけど、町でも食べられないような絶品の豆腐を作ってらっしゃるんだ!」
「へぇ・・・やはり美味しいのですね」
「そりゃもう!俺も知ったのは最近で、学園へ帰る途中によったぐらいのきっかけだったんだ。その豆腐のおいしさに感動したんだけど、その時は実はめたつ屋さんは寂れてたんだ」

小梅はいまの人だかりを前にしたばかりで、最近まで寂れていたという言葉が信じられなかった。そこではたと気づく。はじめの兵助を呼ぶ店主の声は今は聞こえない。それに姿も見ていないのだ。

「・・・というのも、ここの店主の白濱さんというご老人が一年前に腰を痛めてしまって、今は奥さんが看病しながらめたつ屋をやってるんだけど、白濱店主の看病をしながら豆腐を売ることができなくて、さびれてしまったんだ」

「それで最近来た久々知先輩が、めたつ屋さんのお手伝いをしているのですね?」

久々知は頷く。さすが豆腐小僧を異名をもつ者だ。豆腐にかける精神もすごいが、豆腐屋さんに対してもとても親切だ。そう小梅が思っていると再びあの老人の声が奥からした。

「兵助、すまないが来てくれるかな?」



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