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「とにかく、ありがたく、ここの水を持って帰ろうよ」
「そ、そうですね」
なんだかうやむやにされたようで納得がいかないが小梅と兵助は桶にたっぷりと水を汲んで再び天秤棹を持ち上げる。
「小梅さん、歩けるかい?」
「はい!私畑仕事で慣れてますから。へっちゃらです」
「頼もしいな」
兵助がみるとたしかに彼女の足取りはしっかりしており、山道の下りも用心しながら着実に降りていく。むしろ自分の方が危ないかもしれない、と兵助は思った。
「久々知先輩はやくはやくっ」
「あはは、うわさ通りのたくましだ」
小梅ははっと赤面してうつむく。
なれた作業につい気持ちが緩んで先輩の前でいつも通りの振る舞いをしてしまった。
「す、すみません。私ったら・・・」
「いいんだよ。俺、君のそんなところも素敵だなって思うし。あの・・・」
兵助は天秤棹をおろし、改めて小梅に向き直る。
「今までは滅多に会えることもなかったけど、これからは何かあったら俺を頼ってよ。君が頑張ってるのを見ているとさ、協力したいなって思うんだ」
「ありがとうございます・・・久々知先輩がいらっしゃるなら心強いです!よーし、補習、頑張らなくちゃ!」
小梅は再び元気よく歩き始める。激しく桶が揺れるのをみて兵助は苦笑いする。
「ほら、小梅さん水がこぼれちゃうよ。ゆっくりいこう」
「はい!」
そんな微笑ましい会話をしている間に村にたどり着く二人。めたつ屋にたどりつくと山左衛門夫婦が表に出ているのをみつける。
「山左衛門さん!お体大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫。そろそろ二人が帰ってくると思ってね。待っていたんだ。二人とも」
兵助と小梅は担いできた水を置き、真剣な様子の山左衛門を見つめる。中へ戻り話がしたいと山左衛門は店内に戻る。
「実は、二人が持ってきた女龍の水で、私達が昔作っていた豆腐を作ってもらいたいのです」
「白濱ご夫妻が作ってらっしゃった豆腐?それはあの豆腐ではなくてですか?」
兵助は台所の桶に入った豆腐を指差す。山左衛門は首を横に振る。
「女龍の水はあの豆腐には使っておらん。私達が作っていたのは恋豆腐というものですよ」
「鯉豆腐?魚が入ってるんですか・・・」
「小梅さん違うよ・・・多分」
ずっこける山左衛門を横に隣にいた山左衛門の妻が続ける。
「恋、恋愛のことです。愛の豆腐、それが女龍の水を使って作られております。美肌効果にもよく、食べると美人でいられることから女性に人気の豆腐だったんです」
「それを白濱さんご夫婦が作られてたんですね!」
確かにこの夫婦は高齢ではあるが肌艶もよく若々しく見える。恋豆腐の効果は小梅でも女性としてとても魅力的に感じた。
「はい。私達が作り方をお教えしますので二人で作ってみてくださいな」
「よーし!小梅さん、よろしく頼むよ!」
そういって恋豆腐作りの準備を始めると外が少し賑やかになってきているのを兵助は感じた。
「あの、山左衛門さん、外にお客さまがこられてるのでしょうか」
兵助の不安そうな問いに山左衛門は静かに笑う。すると子供を抱いた若い女性が嬉しそうに店内を訪れた。
「山左さん!恋豆腐作り、再開したの?・・・あら?」
女性は豆腐の下準備をしているものが別の人と知ると少し驚いた顔を見せた。
「めたつ屋の跡継ぎのご夫婦が見つかったんですね〜!また恋豆腐が食べられるなんて嬉しいわ!」
「え?な、なんですか?ごふうふ・・・?」
「あら、恋豆腐の本当の言われをご存じないんです?」
女性はうっとりと嬉しそうに恋豆腐について語り始めた。
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