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「まず恋豆腐のきっかけですが、恋豆腐には女龍の水を使うでしょう?女龍峡では恋人、夫婦がその水をひとつの器で互いに飲み合うと女龍の祝福をうけるんです。そしてその祝福を受けたのは白濱さん達のご先祖様なんですよ」

やがてその先祖が豆腐屋を始め、女龍の水で夫婦の手によって作られた豆腐を恋豆腐とこの村では親しまれるようになり、白濱家では代々夫婦が恋豆腐を作るようになったらしい。毎朝恋豆腐を作る仲睦まじい姿はこの村の名物にもなっていたとのこと。
そこまで説明して、聞いていた山左衛門がしみじみと言う。

「残念ながらわしらには子ができんかった。いままで二人で豆腐屋を続けてきたが、こうして腰を痛めて豆腐を作ることもままならなくなっていたところに兵助と小梅さん、お前達が来てくれたんだよ」

その話を聞いて兵助はうつむいた。小梅はなんだかとんでもないところに巻き込まれてしまったのではと心配そうに兵助の顔を覗く。

「小梅さん・・・」

兵助がぽつりと小梅の名を呼ぶ。
小梅ははい、と返事を返すとがばりと彼女の手をとった。

「俺たちで・・・恋豆腐を復活させよう!」
「へ!?・・・ええーー!」

兵助の瞳は潤んでいた。さきほどの話を聞いた彼は感動をしたようだ。

「めたつ屋さんや豆腐の気持ちを考えると俺、感動しちゃって・・・」
「と、豆腐の・・・気持ち、ですか・・・」

さすが豆腐小僧などと言われるほどの豆腐大好き久々知兵助は話を聞いてこの村の人の期待や白濱夫婦の気持ちに答えたいと思った。

「女龍の伝説通りにやればまた恋豆腐が作れる!お願い小梅さん!」
「わかりました。久々知先輩や皆さんのために私も協力します!」

小梅は、豆腐の気持ちはわからないが兵助の熱心な意気込みには感心したので、自分でよければと改めて、恋豆腐作りに協力することにした。小梅は豆腐作りは初めてであるが、白濱夫婦の指導や兵助の手助けもあってなんとか工程は理解できた。

下準備も終わり、女龍の水で膨らませた大豆を兵助が手際よく豆乳にしていく。その間、白濱夫婦に渡された紅麹を入れると淡い桃色になった。

「久々知先輩、色きれいですね」
「・・・」

兵助は周りの声も聞こえないようで真剣に豆乳をにがりで煮詰めている。そんな兵助にはっとした小梅も彼に負けないよう集中せねばと固まっていく豆乳を入れる豆腐箱の準備をしていく。

固まった豆腐を用意した豆腐箱に流し込み蓋をして錘を乗せると、じわりとそこから水分が出ていく。そこまでいって兵助はふうと息を漏らした。

「山左衛門さん、どうでしょうか?」
「よいですよ」

小梅と兵助は再び騒がしくなった戸の方をみるとさらに多くの村人がこちらをのぞいているのをみて驚いた。

「みてみて、随分若い夫婦ねぇ」
「うらやましいわぁ」
「また恋豆腐が食べれるのね」

村人は女性ばかりで期待に満ちた様子で色んな事を言っている。その言葉に兵助と小梅は困惑した。

「いや、実は僕達は夫婦じゃなくてですね・・・」
「あらじゃぁ恋人同士なの?はやく一緒になんなさいよ。すごくお似合いよ」

気の強い女性達にさすがの兵助でもたじたじだ。小梅はとても困っている様子の兵助に思わず頭を下げた

「ごめんなさい。変な噂ができてしまって・・・それに私なんかとの・・・」
「そんなことないよ!むしろ役得・・・じゃない!俺は君に感謝してるぐらいだし!」

兵助に頭をあげてくれ、と言われ頭をあげみつめあう二人。それをみた野次馬達は「若いわねぇ〜」とひやかしを入れる。

「そろそろ豆腐が固まる頃じゃの。どれ、今少し食べてみましょうか」

ゆっくりと豆腐箱から豆腐を取り出すと淡い桃色のつやつやした絹豆腐が出てきた。ふわりと濃厚な大豆の香りがする。まだ暖かいそれを小皿に掬い、小梅と兵助、白濱夫婦は一口食べる。

「んん〜!」

瞬間、小梅の瞳はきらきらと輝く。ほろりと溶けるようなまろやかな舌触りと大豆の味がやさしく伝わってくる。小梅は特別豆腐の味がよくわかる訳ではないのだが、作り手の丁寧な作業がまさしく味に表れていると小梅は思った。そして自然ととある言葉を漏らす。

「久々知先輩の作った豆腐・・・私大好きです〜」
「えっ」

兵助はその言葉を聞き逃さなかった。幸せそうに美味しそうに恋豆腐を食べている小梅の様子を見て、兵助はそっと微笑んだ。

「はい、奥様方もどうぞ」

白濱夫婦は見にやって来た女性達にも恋豆腐を分けている。彼女達も久々にたべる恋豆腐に満足しているようだった。

「また恋豆腐作るの、待ってるわね」

そういって満足した彼女達は去っていく。再び静かになっためたつ屋のなか、山左衛門は言った。

「兵助、こんどはこちらのお嬢さんもたまにはお呼びしてくれると嬉しいなぁ。無理にとはいわないですけどね」
「え、私またきていいんですか?」
「もちろん。また恋豆腐を作っておくれ。兵助、お前もそうしたいのでしょう?」

そう言われた兵助はちょっと照れたように笑う。

「・・・うん。小梅さんがまた手伝ってくれるとはかどるし・・・」
「久々知先輩の豆腐が食べられるなら手伝います!勉強の合間とかになると思いますけど・・・!」
「わかった。ありがとな」

その後は道具や部屋の片付けを終えてふと外みると空は茜色。

「二人とも、今日はありがとうね。これ、お給金よ」

そういって山左衛門の妻が小梅に銭を渡そうとするのを小梅は首を振る。自分はただ手伝いをしただけであり、兵助はたくさんの働きをしているが、自分が受けとるほどの働きはしていないと思ったのだ。

「いいのよ。私、あなたに教えていて娘ができたみたいで嬉しかったわ。また来てちょうだいね」

二人は給金をもらい、お礼の挨拶をして村を出た。日がくれる前に学園に戻らなければならない。兵助は小梅と歩きながら彼女の方へ振り向いた。夕日に照らされた兵助の整った顔がくっきりと浮かび美しい。

「そうだ。今君のシートに名前を書くよ」

小梅はおそるおそるお嫁さんシートを差し出す。同級生の三木ヱ門とは違い、先輩の者からサインをいただけるとは思わず、ためらってしまう。その緊張した姿を見て兵助は首をかしげた。

「どうしたの?固い顔して?」
「な、なんか・・・先輩にこれにサインをいただくのが申し訳なくて・・・」

素直に理由を言う小梅にくすりと兵助は笑う。

「お嫁さんシートっていうのは、君をお嫁さんにしたいって思ったら書くんだろ?なら、問題ないよ」
「はい?」

小梅が理解しないうちに兵助は紙を抜き取りさらさらと名前を書いた。そのまま小梅にシートを返す。そこには丁寧な筆で久々知と書かれていた。

「君が前してくれた質問。俺の好きだなって思う女の子のことなんだけど・・・」
「はい」

兵助はちらりと小梅の顔を見てすぐに視線を外す。

「その人は俺の作った豆腐を大好きって言ってくれる人なんだ。豆腐作りはまだまだ修行中だけど、それでも大好きっていってくれたら、それだけで支えになるから・・・」
「久々知先輩の豆腐、すごく美味しいとおもいますけど」
「ありがとう・・・あぁ、うん」

そこで兵助止めて再び歩き始める二人。兵助はその先の言葉を飲み込む。確かに彼女が自分の豆腐が大好きだといったのは嬉しくあった。しかしそれ以上にめたつ屋で一緒に豆腐を作れたことが彼にとってとても楽しい時間だったのだ。

兵助は歩き続けて小梅の方を見ずに何気なく言った。

「小梅さんと豆腐屋をやったら、たのしいだろうな・・・なんてな」
「え?何て言いました?」
「・・・なんでもないよ」

そんなこと兵助の考えも露知らず、小梅は改めてお嫁さんシートを開く。そこには名前が並んでおり、さらに上級生の名前もある。ひとまず補習はこれで安心だろう、と思うもやはり自分は補習らしい補習をしていないと思った。その結果に小梅は首をかしげる。

(とりあえず帰ったら、シナ先生に報告しなきゃ)

小梅はふと空を見上げると夕焼け空に鴉が群れで飛び立った。東には霞がかった月が登り始めていた。


恋豆腐 ー完ー



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