金ほどに物は言えない1
それは夕方の出来事。摂津きり丸はその日の仕事を終え、自分の住む町へ続く山道を下っていた時であった。彼は上機嫌でその下り道を歩く。今日の仕事はうまくいったお陰で多くの報酬を貰えたのだった。
「へへ、銭もたんまりもらったし、早く帰って銭を数えなきゃ・・・」
きり丸はそう呟いて懐に銭を納める。一見、彼は普通に町に住む男性だがその本性はフリーの忍の者。つまり忍者であった。
その腕前はなかなか見事なもので色々な城からも評判が飛び交う。彼は一部のものから「鬼銭のきり丸」と恐れられており、銭のためなら命さえもいとわず人にも情をうつさぬ鬼のごとき忍びだと言われていた。
きり丸は何者かとつよくぶつかりよろめいた。銭を落としそうになって彼は慌てて懐を押さえた。ぶつかったものは何も言わないまま
山の方へとかけていく。その後ろ姿は自分とあまり変わらない、少し年下ぐらいの年の娘の背中に見えた。彼女は足場のわるい山道のせいでその場によろめき崩れた。
きり丸は彼女のもとへ駆けていく。
「あんたどうしたんだよ?こんな時間に山へいくのはよしなって」
「ほうっておいて!」
きり丸の言葉に荒く答える女性にきり丸は困惑する。人にぶつかっておいてあやまるどころかこうやって一言声をかけてもつっけんどんにされてしまったのだ。その時、また同じ方向から娘の後をおいかけるように男二人が遠くから声をかけてきた。
「にいちゃん!そこの女を捕まえてくれ!」「礼はするから!」
きり丸は礼という言葉に反応した。彼は厳しい環境の中で育ったせいか、お金を集めたりやなにかをもらうことが大好きであった。
人から言われてしまえば”がめつい”のだが、そんな評価は彼にとって生きる上で関係のないことだ。
「礼!?」
とっさに娘をみる。彼女の着ているものは年ごろの女性にしては色あせて着古している。髪も十分な手入れができずにそのままで
おせじにも美しいとは言えない姿だった。しかし、娘が顔あげるとその身なりには似合わぬ凛々しく力強い瞳をもった容姿をしていた。
「…っ」
彼女は悔しそうにその場に突っ伏す。その姿をみてきり丸は察した。彼女はおそらく村で身売りされたのだろう。
それを町に連行する途中に隙を見て逃げ出そうとした…そんな辺りかもしれない。
きり丸は正直やっかいごとには関わりたくはなかったが、その様子を見捨てていくようなこともできなかった。
考えていると男たちはきり丸のもとへたどり着き、走ったせいで息を切らしている。
「助かった。売り物が逃げていくところだったぜ」
「売り物?」
「その娘だよ。ほらあきらめていくぞ!」
男が娘の手を無理やり引っ張ろうとしてきり丸はあっと声をあげた。
「おっさん、それが人に接する態度なのかよ。無理やりだぞ」
「こいつは売りもんなんだからいいんだよ!金をやるから黙ってろ!」
男は口止めに金包みをきり丸に渡そうとする。彼は一瞬その包みを見たがすぐに首を振って男たちをにらみつけた。
「いっ、いっ、いらねぇよ!そんな金!お前らみたいな奴は俺はだいっきらいなんだよ!」
きり丸は男二人に啖呵を切る。男たちも娘を渡そうとしないきり丸の様子をみて、にらみ返す。
男は苛立ったように言った。
「だからといってこのまま帰れないんだよ。俺たちは仕事でその女の親にちゃんと金は払ってんだ。俺たちを見損なうよりもその女を売った親の方が非道ってもんだ」
「…そうなのか?」
きり丸は娘の方を見る。彼女は苦しそうな表情で黙って頷いた。
だが親に売られたとて、彼にとって目の前で身売りされている所をだまって見ていたくはなかった。それにいくら金を払ったとしても、彼女は嫌がっているのだ。それに彼は世の中の不条理には人一倍思うことがあった。きり丸は嫌がる彼女のために思いついたことを言った
「なら俺がこの子を買う!」
「えぇ!?」
驚いたのはきり丸の後ろにいる女性。男たちも想像もできなかった発言に聞き返した。
「にいちゃんが買うのか?この女を?」
「あぁ。いくらだよ」
男たちは少し考えた後こそこそと二人で相談を始めた。
少しして話がまとまったようで男はきり丸に言った。
「元はそいつで稼ぐために買ったものだ。そいつをお前に売るなら、そうだな。百文で仕入れたから、五百文でどうだ?」
男が額を言う。それは誰が聞いても高額の値だった。銭に関してはとことんがめついきり丸、過去に星の数ほどアルバイトを行い、商売のいろはを習得している彼にとって、男たちの商売の仕方は嫌いなものの、納得の数字であった。
きり丸は手持ちの金と今日稼いだ金を思い出す。全部合わせても仕入れ額にしかならない。それを渡してしまえば自分は手持ち一文無しだ。もう一度きり丸は女性の顔を見る。そのすさんだ姿にきり丸は妙な感覚になった。
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