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二人は神社の適当な石畳の階段に腰かける。きり丸は土井の言いたいことは何となく予想ができた。彼はのんびり背伸びして土井の方を向く。土井はきり丸、と名前を呼んだ。
「結論から言う。彼女は私が預かろう」
「彼女って、あやめのことですか?」
土井は頷く。なぜあやめを預かるなんて言うのか、その言葉の続きを待った。
「きり丸、お前はまだ若い。年頃の女の子と暮らしていると周りからの目も、生活も大変だ。お前の借金の額は聞いている。彼女、あやめさんを私が保護して面倒を見た方がいいだろう」
土井は真剣にこの話をきり丸に話す。彼は本気であやめを保護するつもりだろう。しかしきり丸は表情をひとつも変えず、あぐらをかいた。
「心配してくれてありがとうございます。でもその必要はないです」
きり丸はきっぱりと土井の申し出を断った。土井は眉を下げてきり丸の本心をうかがように理由を聞く。
「なぜだ?生活も楽になるぞ」
「色々あるんすけど、一番はあいつは俺が買ったってことになってるんです」
きり丸はあやめの顔を思い出す。最近は少しずつ柔らかくなってきたものの、出会ったときは警戒する小動物のように辺りを睨んでいた。すべてのものが敵であるかのような眼差しを思い出す。
人が無理矢理売られる姿を見るのは絶対嫌だったが、その様子も妙に気になって、きり丸はどうしても放って置けなかった。
「なのに土井先生に任せると、あいつ傷ついちゃうよ。やっぱり迷惑だったのか、って。土井先生の気持ちは嬉しいけど・・・あいつには、あやめには俺しかいないんです。金とか世間の理由じゃないんです・・・」
そういってきり丸は土井に頭をさげた。その堂々とした様子に、土井は静かに微笑む。こうして同じ男として、男気のある姿をみるとやはりきり丸も成長したのだと土井は胸が熱くなった。
彼の答えを聞いてそうか、と土井は立ち上がる。
「余計なお節介だったな」
「いえ、土井先生の気持ち、わかりますから。それに・・・その」
きり丸は座ったままどもる。もにゃもにゃとなにか言いたげに土井から視線を離す。
「久し振りに会えて、なんか、よかったっていうか・・・ていうかもう30歳半ばなんすから早く結婚すればいいのに」
「じゃかしいわ」
ごつん、と土井のげんこつが上からやって来て痛みにきり丸がうずくまる。きり丸なりの照れ隠しだったが、素直になれず一言多いのが彼の悪いところだった。
そんなやり取りをして二人はあやめのいる長屋に戻る。そこにはすでに次の狐を用意できたようできり丸の帰りを待っていた。
「きり丸遅い」
「うるへー、ちょっと話してたんだい」
「やぁ、きり丸から話は聞いてるよ。あやめさん」
土井があやめに笑みを向ける。しらない相手に名前を呼ばれてあやめはとっさに身を強張らせる。ちょっと睨んできり丸を見た。
「誰?この人」
「俺が学校にいた頃の先生。ガキんときから世話になってんだ」
「私は土井半助。あやめさん、きり丸とは仲良くしてるかい?」
きり丸のよく知った知り合いと聞いてあやめは内心安心した。あやめは大人の男を見るとつい警戒してしまう所がある。それはきり丸も共に暮らしていて思っていたところだった。
「いえ、毎日バイトを持ってくる鬼ですし」
「可愛いげのないやつ」
お互いいがみ合っている様子に土井は思わず吹き出す。この二人は何となく似ているな、と密かに思った。
「ふふ、そうか。仲良くやってるみたいだな」
「今の会話でどうやったらそう見えるんですか」
そうだ、ときり丸は土井をみる。そして手を揉みあからさまに腰を低くした。
「どうです?土井先生も教え子の手助けをしません?」
この対応を土井はよく知っている。彼はお願いするときは必ず下手にでる。共に過ごした時間も長いが忍者の仕事を初めてから彼のこんな姿を見るのは久し振りであった。
「学園ぶりだなお前のそんな姿を見るのは。仕方ない、私も手伝おう」
「やったーい」
きり丸と土井はそのまま長屋に入る。あやめは黙ってその背中を見ていた。きり丸は振り返り立ちっぱなしのあやめを見る。
「どした?疲れたか?」
「ううん・・・なんでもない」
あやめは呆然と答えて二人のあとについていく。
その後もバイトをしながらきり丸が一言失言をしては土井が怒るというやり取りが続く。それはまるで旧友のような、仲睦まじい親子のような不思議な関係に見えた。
(世間には色んな関係の人がいるのね)
あやめは黙ってその様子をみて思う。ふと土井と目があった。
「あやめさんは、兄弟とかいるのかい?」
「私は・・・弟が一人。村にいます」
今年10歳になる弟があやめにはいた。遊んでばかりの両親の間に生まれたとは思えないほど賢く、強く、優しい弟だ。自分が売られてからは弟はどうしているだろう。もう昔のように幼くはないものの、苦労しているだろうか。自分を心配してないだろうか。急に村にいる彼のことが心配になり胸がいたくなる。
「君は西の村から来たと聞いた。私は仕事柄その近くによることもある。その時は様子を見てみるよ」
「はい。ありがとうございます・・・」
あやめは土井の言葉に、気休めであったとしても安心した。ふと、土井の仕事と聞いてあやめは首をかしげる。
「学校の先生は出張などあるのですか?」
「わわっ、どどど土井先生っ」
がばっときり丸は土井の肩を持ちあやめに背を向けた。土井もきり丸と共に背を向け小さな声で話す。
「やっぱりきり丸、仕事のことを言ってないのか」
「いや、だって・・・仕事柄仕方ないでしょう!ごまかしてください」
その話は一瞬で終わり、さっと二人は向き直る。土井は笑顔を繕い答えた。
「いやぁ、交流のある他の学校の先生ともあるから、出張もあるんだよ」
嘘は言っていないつもりだ。あやめは黙ってその言葉を聞いて特に疑うこともなくそうですか、と一言答えて狐の着色を再開した。なんとかうまくごまかせたのだろうか、二人はほっとため息をついた。
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