同情よりも金よりも
「はぁ、明くる日も明くる日もバイトバイト・・・」
「こら、集中しろよ。この着色が出来たら次は納品行くぞ」
あやめがきり丸の家に住み込んでから一週間がたつ。あやめはきり丸と共に生活してから一日たりとも欠かさず朝から毎日毎日アルバイトに明け暮れていた。なぜなら日銭屋のおりんから毎日銭の取り立てが来るからだ。
しかしその金額はなぜか無利子であり、きり丸は初日にその取り立て書をみてつい聞いてしまった。
「おりんさん、これ、無利子だぜ?取り分ないじゃん」
「・・・わしの気まぐれじゃ。あんまり言うと利子をつけるぞ」
その言葉に直ちにおとなしくなるきり丸。きっときり丸の心意気に情けをかけてくれたのだろう。隣にいたあやめもおりんに頭をさげた。
それからというもの、きり丸はまさに鬼のようになった。彼女が一日もはやく五百文を返せるように、いろんな所から一週間みっちりとアルバイトをとってきたのだった。アルバイトをしながら神妙な表情できり丸はあやめに言う。
「言っとくがおりんさんの取り立てはえげつないぜ。怖い思いしたくなきゃ、毎日ちゃんと銭を返すんだ」
「わ、わかってるよ・・・」
あやめもきり丸名義で金を借りているが自分がなにもしないのは当然ありえない。きり丸がとってきた仕事を確実に行い、取り立て分を毎日きっちり返すのだ。今日は大きな神社で売られる狐の木彫りの着色。ざっと朝から100個は作っている。それは今日の夕方までの仕事で50個ごとに完成させてはきり丸が台車で神社に納品するさらにその帰りにアルバイトも探す・・・と言う天才アルバイターと言われたきり丸にしかできないハードスケジュールだった。
「えっと、50個またできたわよ。きり丸、お願い」
「よっし、行ってくるか・・・」
部屋で狐を作り続けていたきり丸が立ち上がったとき、入り口に見知った姿を見かける。それは向かいの長屋のおばちゃんだった。
「きり丸くん、今日も彼女とバイトなの?働きすぎは体に毒よ」
「いやぁ、貧乏暇無しなもんで」
向かいのおばちゃんは桶に蓋をした物を持っており、きり丸に渡した。ちょっと同情をした瞳を彼に向ける。
「若いのに同棲なんて大変よ。これ、うちで余った冬瓜と芋の煮物なんだけどね、二人で食べてちょうだい」
「うわぁ、嬉しいなぁ。ありがとうおばあちゃん!」
きり丸に煮物を渡し向かいに戻っていく背中姿を見送り、にやにやした様子できり丸が戻ってくる。
「しっしっし、あやめと暮らしてからいろんな人からおこぼれをもらうんだよな」
「断んなさいよ」
あやめの言葉にとんでもない!ときり丸が首を振る。
「ただでもらえるもんはもらっとくのが、どけちの基本だ!配付ティッシュだって5つは絶対もらう」
「もらいすぎ・・・って、はやく狐を届けに行かなきゃなんじゃないの?」
あやめの言葉にはたときり丸が我に返る。そうだ、はやくきっちり届けねば信頼を失い次の仕事に繋がらなくなってしまう。すみやかに狐をまとめ、小さな台車に積み重ねていざ行こうとした時、また見知った人物が神社のある方向からやって来た。その姿にきり丸の表情は変わる。
「土井先生・・・!?」
「ようきり丸。元気にしてるか」
きり丸は土井と呼ばれたその男を見る。歳は30半ばあたりの、鍛えた身体つきの落ち着いた風貌の男。彼はきり丸の学生時代の教師。そして学生の頃にきり丸はその土井と共に暮らしていた。きり丸が忍者として仕事を初めてからは土井とは別れ、こうして自立して生活をしていたのだ。
「なんだ、お前、バイトか?」
「いやぁー、色々ありましてぇ、またアルバイターやっとります」
何気なく言ったきり丸の言葉に土井は知っているぞ、と呟いた。
「おりんさんから聞いた。借金をしてるんだろう?しかも年頃の女の子と住んでるって」
「おりんさん言っちゃったの?」
「おりんさんが言わなくてもここらじゃみんな噂してるぞ?あのきり丸が女の子と住んでるって」
きり丸は土井の心配そうな様子にひょうきんに肩をすくめた。
「噂になってるんすか。いやー、人気者はプライベートがないなぁ」
「おちゃらけてる場合か!・・・神社に行くんだろう?私も手伝う」
そういって台車の横に立った土井にきり丸は笑顔になる。
「さっすが土井先生ー!助かります」
青年になっても変わらないきり丸の振るまいに土井は軽く頭を痛めた。
そうして暫く歩くと目的の神社が見える。きり丸はその神社に着くと台車を止めて事務所に顔を出した。土井は木箱に積まれた狐を抱えきり丸の元へいく。
「あと2回ぐらいで納品終わりますから。夕方までには終わると思います!」
「いやはや、急なお願いだったのに、凄いね君は。いいバイトを雇ったなぁ」
神社の職員、禰宜(ねぎ)である一人の男がありがたそうにきり丸に声をかける。きり丸は完璧な営業スマイルを向けてちょきの手をした。
「ありがとうございます!ご贔屓にしてくださいよ!」
空になった台車を引こうとしてきり丸が一歩歩くと、隣にいた土井が少し待ってくれと足を止めた。その真剣そうな土井の表情をみて、きり丸は黙って立ち止まる。
「少し話がある。いいか?」
「いいですけど」
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