4
「トメちゃん、大丈夫?とっても慌てちゃって・・・」
「お前がのんびりしすぎなんだっ!お前はドクタケ城専任の女中にされそうになったんだよ!」
留三郎がわかばの天然ボケをつっこむ。どうやら追っ手はこないようだと留三郎は息をついた。
わかばは先程までの留三郎の変装や動きをみて、足軽とも武士とも言えない動きに首をかしげていた。
「あらそうなの〜。でもトメちゃん、まるで話に聞く忍者みたいだったわ。すごいのねぇ」
わかばは留三郎は学校で学ぶ学生だと思っていた。しかし、今回見せた姿はまるで学生とは違う、特殊な身のこなしだと思ったのだ。留三郎はわかばの鋭い言葉に一瞬黙っていたが、わかばの戸惑いの混じった瞳をみつめると隠し通すのも気が引けると思い、彼女に自分の本性を明かした。
「・・・わかば。黙っていてすまない。俺はただの学生じゃないんだ」
「?」
わかばは雰囲気の変わった留三郎をみて不思議そうにしている。ここまで言えばわかるものだがわかばはやはりわからないようだった。肝心なところで疎いな、と留三郎は思う。
「俺は、忍者の勉強をしている。将来は忍者になるつもりだ。今回お前の仕事に同行したのは悪評高いドクタケ城に行くと言ったからなんだ」
「トメちゃん、ドクタケ忍者になりたいの?」
「そうじゃない。ドクタケが戦の準備をしているように感じたから、その調査だ。いくら忍者のたまごといえど、ドクタケの動きは無視はできんからな」
留三郎の言葉にわかばはそっか、と言って黙ってしまった。留三郎は突然おとなしくなったわかばの様子に違和感を持った。彼女は助けてくれてありがとう、と一言言って何事もなかったかのように町へと足を動かした。戸惑ったのは留三郎の方だ。
「怒ったか?」
「ううん」
わかばはその言葉に立ち止まる。わかばは実は悲しんでいた。彼に嘘をつかれたという意味でもない。ただ、年を重ねるごとに彼は大きくなってまるで別人のように変わっていく。どんどんしらない者へと変化していく彼にわかばは悲しさを感じていた。
「トメちゃん、もうあの頃とは違うんだなって。そう思っただけ・・・」
「わかば」
トメちゃん、という呼び名も彼女があの頃の留三郎を忘れないように変えずに読んでいた愛称だ。しかしそんな呼び名はもう彼には似合わない。留三郎の正体を知ったわかばは、昔の彼との思い出を決別するべきなのだと思った。
「・・・ごめんね。私、あなたを忘れたくなかったの。でもどんどん遠くなっていくね。あと何回あなたに会えるかな・・・」
ぽつり、独り言のように留三郎にいったわかばの小さな背中。その背中をみて、留三郎は初めてわかばの気持ちに気がついた。留三郎は初めてわかばに会ったときから彼女の事を忘れたことがなかった。こうして先輩が卒業した今も金物屋に来ているのは昔の贔屓もあるが、わかばに会うためでもあったのだ。
「わかば、お前・・・」
「・・・さっ、町に帰りましょう。”留三郎さん”」
彼女は自然に、なにかを受け入れるように笑顔でそういった。そのまま歩こうと一歩前に進もうとして留三郎はわかばの腕をとった。
「・・・どうしました?」
「やめてくれ。そんな他人みたいな言い方。俺たちは昔から変わっちゃいないだろう?」
お互い幼かったあの頃は会えた日は外で遊んで、用事が終わる時には手をつないで帰った。留三郎はあの頃とは変わっていないと言った。しかしこうしてならんでも留三郎は大きく、わかばが見上げるようになった。
留三郎はとった腕からそのまま手をつなぐ。
「いつもみたいに呼べばいい。ただ忍者になりたくて強くなった訳じゃないんだ。お前といつもと変わらずいられるようにって・・・そう思っちゃ悪いか?」
「トメちゃん」
そのぬくもりは昔と変わらない暖かさだった。わかばは留三郎が自分の事を考えてくれていたことが嬉しかった。忍者になっても、大人になってもこの先彼は自分に会いに来てくれるだろうか。一緒にならんでわかばと留三郎は町へ戻っていく。そういえば、とわかばは思い出す。
「ドクタケ城に道具の製作を頼まれてたんだけど」
「断わっちまえ。・・・あの調子じゃ戦なんて無理だろ。あっ、お前を連れ戻しにくるかもな?」
あとで金物屋の番頭に忍術学園の事を伝えておこうと留三郎は思った。万が一彼女が狙われてた場合、一番に助けにいくのが自分であるように。わかばの呑気に振り回されるのは留三郎の役目でもあるのだ。
わかばは留三郎の手を強く握った。
「トメちゃん」
「ん?なんだ?」
幼かったあの頃とは違うかもしれない。しかし変わらない感情もあるのだとわかばは知った。彼女は素直にこの思いを告げることにした。
「大好き」
トメちゃんと私 ー完ー
- 8 -
*前次#
ページ: