両派の目的
彦四郎は塾から小川を挟み人の多い通りへと向かう。そこで一人気配の違う人物を見かけて彦四郎がはたと顔をあげるとそこには店の入り口前でだんごを食べ終えた伝七が茶を飲みながらくつろいでいた。彦四郎と目が合うなり、よう、とすました顔で言った。彦四郎は伝七の隣に座ったらすぐさま店員がやって来た。同じく茶と団子を頼んで、彦四郎は伝七をみやる。ちょっと気まずそうな様子の彦四郎に伝七は一言聞いてきた。
「話はつけてきたのか?」
「あ、うん。その、すまなかった。せっかく来てくれたのに」
「別に気にしてない。僕が来たのは”例の件について”だ」
実は彦四郎と伝七は互いに情報を交換しあっていた。それはこの町でもしばしば問題に上がる柏派と桜派についての話だった。彦四郎は声を少し落として伝七に言った。
「柏派の様子はどう?」
「ふむ、面白い情報を手に入れた。たぶん、お前もそうなんじゃないか?」
伝七はにやついた笑みを見せる。彦四郎は頷いた。今自分が持っている情報と伝七が持っている情報は同じものであるらしいと彦四郎は察した。
「・・・どうやらこの町はとある奴らの策にはまっているらしい」
「うん。どうやらそうみたいだ。昨日の晩、桜派の庵餅代官の側近の安倍川と柏派の主格、粉呂門司代官が落ち合っていた」
「ああ。豪華な酒や食事をたっくさん用意して、実に賑やかだったな。どこからそんな金を用意したのか・・・」
伝七はあきれたようにため息をついた。彦四郎は調査した際に見た安倍川の顔を思い出す。顔の細い狐のような目をしたいかすけない感じのする男だった。
「安倍川は庵餅を裏切るつもりだろうな。屋敷を焼くなどという噂も安倍川が流している。そして柏派に桜派の情勢も流しているようだったな」
「安倍川を使ってあらぬ噂を流して混乱させてそれに乗じて桜派を断つ作戦かな?」
「いや、柏派はともかく、安倍川の狙いは打倒桜派ではない」
伝七は彦四郎の考えを違うといった。ちょうど彦四郎のもとに団子と茶が運ばれてくる。それを受け取り、一口茶をすすった。
「安倍川の目的は桜派の代官の座さ。庵餅を代官から引きずりおろして自分が政権を握るつもりだ」
「そうすると・・・」
彦四郎はちらりとある考えが浮かんだ。
「柏派と繋がってた安倍川が代官になれば、互いのいがみ合いもなくなるんじゃないか?」
伝七は肩をすくめて甘いな、と言った。
「安倍川は柏派の懐に入っている。あいつは柏派も自分のものにするつもりさ」
「全くなんてやつだ。全く無関係の獅子竹城も引き込んだりして」
安倍川の貪欲さと性根の悪さに悪態をついている彦四郎をみて伝七は腕を組んだ。
「お前からしたら許せない話だろうな」
「あのとっても用心深い清之助様が他国と手を組むなんてことは無いから!桜派も言いたい放題されておいて何もしないのかな」
何気なく言ったその言葉に伝七は少し笑っておもむろに団子屋の店の奥へと声をかけた。
「だ、そうです。庵餅様」
「へ?」
彦四郎はきょとんとして伝七の視線を追う。すると奥からやってきたのは作業服の質素な小袖を身にまとった体の大きな男が出てきた。その顔を改めて見て彦四郎は声を上げる。
「ええー!なんで?」
「気づかないなんて彦四郎、気が緩んでるな」
「どうも」
頭を下げた団子屋の主人、もとい桜屋敷の代官庵餅は軽く会釈した。軽く狼狽えた彦四郎は庵餅に聞く。
「では、先程の話もお聞きになって?」
「はい。事情は全て。彦四郎殿のことも聞きました。そこのお方に」
伝七は素知らぬ顔で茶をすすっている。それを彦四郎は横で睨んだ。
「あのなぁ、ほんとに勝手に人のことべらべら話さないでよ!」
「いいだろ。もう忍者じゃないんだから。でも、この先の話は彦四郎、「教師」では動けない話だ」
伝七は立ち上がり団子屋の奥へと入っていく。彦四郎も慌てて茶と団子を持ち室内へと入ろうとして前にいた庵餅が団子の皿に手をかけた。
「お持ちしましょう」
「あ、は、はい」
そのまま三人、団子屋の中へと入っていき、彦四郎は団子屋の暖簾を下げ戸を締めた。
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