ようこそリフレッシュ休暇


池田三郎次は優秀な忍びである。彼が務める国の城はまだ小さいものの、同盟を含む国交のやり口が巧妙で戦わずして国を治めて力を拡大している。そんな国にも忍者隊はいくつかあり、池田三郎次は若くして敏腕。その城の忍者隊のある部隊の隊長の側近であった。

今日はその忍者隊の隊長から呼び出しをもらい、三郎次は城のとある一室に来ている。廊下に座り、障子をそっと開けるとそこには自分の上司である隊長が一人座っていた。

「池田三郎次」
「はっ」

三郎次はそそくさと隊長の前に正座し、頭を深々と下げた。しかし名前を呼ばれた彼の頭の中でいろんな不安が渦巻いた。なぜ自分が隊長に呼ばれたのかさっぱりわからず、いろんな可能性を考えていたのだ。知らず知らず隊長の癪に障るような言動を行ってしまったのか?三郎次はここにくるまでそんな思案をずっとしていた。

「呼んだのはな、この間の籠城戦の一件についてだ」
「あの一ヶ月ほど前に行った?」

三郎次は一ヶ月前の籠城戦を思い出す。敵が攻め込んできて、三郎次は相手方の情報収集と伝達に行きをつく暇もないほど右往左往していた。結果、三郎次が敵の状態を掴み、それを軍師に報告したことから立場が逆転。籠城戦は長引くことなく被害も軽く勝利することができたのだった。

「そう。お前の得た情報、敵部隊が少なく意気消沈しているという報告から殿も迷うことなく相手方を撤退させることができた。そのおかげで無駄な犠牲を出すこともなく、3日程度で籠城戦に勝利することができた。殿は大変感心なさっていた」
「私は出来ることを行ったまで。ありがたいお言葉です」

再び三郎次が頭を下げる。顔を上げると、隊長は笑顔になっていた。その笑顔の意図するものがわからず三郎次は不思議な表情のまま上司を見上げた。

「いや、そう気を張るな。良い話だ。お前の働きに感謝して殿から長期休暇の許しが出た」

三郎次はきょとんとした。休暇、さらに長期となるともしかして暇を出されたのか?喜ぶべきものではないのではないかと三郎次の心が曇っていく。長期休暇ときいてさらに微妙な顔をした三郎次を安心させるように、彼の上司は声音を和らげた。

「悪い意味ではない。籠城の間、お前が息をつく暇がないほど動いていたのはわかっている。さぞかし疲れたであろうとお察しの上の労いの長期休暇だ。しかも金がでるぞ。ボーナスつきだ」

三郎次の顔色が変わる。どうやら本当に悪い意味ではないらしい。三郎次は恐る恐る気になることを聞いてみた。

「あの・・・休暇日数は?」
「うむ。それが一ヶ月だ」
「一ヶ月ぅ!?」

素で三郎次は驚く。潜入出張にでるのと同じ期間の休みだ。そんな長期間自分が休んで良いのかと根が真面目な三郎次は躊躇した。

「あの、私が抜けている間の部隊や城が心配なのですが」
「なんだ、飛び付くかと思ったら。気にするな。現在の情勢は一番の敵であった国とはその籠城戦で破れ痛手を負っている。その他の敵国はどこも物資不足で戦どころではない。我々は同盟国を多く持っておりそうやすやすと手は出せまい。つまり、今しか休めんと言うことだ」
「はあ・・・しかし」

理由を聞いてもなお心配そうな三郎次。上司は立ち上がり、三郎次のそばにより肩を力強くおいた。

「その間我々も研修や訓練に力をいれる。私たちにはお前が必要なのだ。そのお前が疲れきっていては我々は万全とは言えない。さっきも言ったが今しか休めないんだ。三郎次。リフレッシュしてこい」

その言葉を聞いて三郎次はようやくうなずいた。満足そうに上司も頷く。休暇の開始日と次回出勤日を聞き、三郎次はその一室を出ていく。あたりは夜更けになっており、自室に戻る道すがら、三郎次は考えた。一ヶ月のリフレッシュ休暇。そんな休みは学園ぶりだと思う。学園ぶり、と三郎次は旧友の顔を思いだした。たしか最後に会ったのは去年の冬だっただろうか。今はすっかり暑くなってしまい、会った日のことが妙に遠く感じられた。

(たしか、あいつの家の近くには海があったよな)

三郎次は最後にみた冬の荒波の海を思い出す。彼は元は漁師の家元で、海や川で泳ぐのが好きだった。友人に会う道中、泳ぐのもいいかもしれない。

連日、気を張っていた糸がゆっくりと緩むのを感じる。日頃国のため城のためと働きづめであった三郎次に久々に自分の心安らぐ好きなことができるという喜びを感じていた。

「よーっし、今日はもう早めに寝るかあ」

大きく伸びをして三郎次は独り言をぼやいた。真夏真っ只中だが、山から吹き抜けるうっすらと香る冷風と虫たちの音色が今は心地がよかった。




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