重なる想い

夏島のある日の昼頃──



「行ってきまーす」


家族に声をかけて自宅を出たあたしは、街へと向かった。
細い路地裏を抜けて大通りに出て歩いていると、見慣れた姿が向かいからこちらに向かって歩いてきている。


太陽の光に照らされて輝くのは、赤い髪。


一カ月前からこの島に停泊している、一隻の海賊船がある。
比較的穏やかな島だけど、色んな海賊が訪れる。
騒ぎを起こす者もいれば、周りと打ち解ける者もいる。

今回、停泊している海賊は後者。
最初こそ、また騒ぎでも起きるのかと思って、あたしも皆も少しは警戒したけど、争い事を自ら起こす事はしないから、今ではすっかり打ち解けている。


次第に彼との距離が縮まってくる。


「どこの綺麗なお姉ちゃんかと思ったら、ユリアじゃねぇか」
「相変わらず上手い事言いますね、船長さん」
「本当の事だろう」

そう言って高らかに笑うこの人は、停泊中の赤髪海賊団。

あたしが働いてる酒場に、皆で毎日のように来てはお酒を飲んでいる。
最初は何とも思っていなかったけど、カウンターでお酒を飲む船長さんと会話をする事が増えて、たまにご飯に誘われたりしているうちに惹かれるようになっていった。

「ところでユリア。買い物か?」
「はい。服を買いに・・・」
「じゃあ、俺も付き合うかな」
「え・・・」

たまたまバッタリ会っただけなのに、一緒に来るとかビックリする・・・


「イヤか?」
「い、イヤだなんてっ。そんな事ないですけど!」
「じゃあ、一緒に行こうか」
「ご、誤解されませんか?」
「誤解?誰に?」

キョトンと不思議そうにあたしを見つめる、真っ直ぐな瞳。
ドキドキして、彼の方をうまく見られない。

「あなた程の人なら、彼女とかいるんじゃ?」
「いねぇよ」

そう言って、また大笑いしている。

その笑顔が、余計好きになるんだよなぁ・・・


「彼女になる予定の人はいるけどな」

・・・やっぱり・・・

「じゃあ、その人と一緒にいた方が・・・」
「だから一緒に行くんだろ?」
「・・・え?」


そう言う船長さんの顔は、とても穏やかな笑顔。


「彼女になる予定はお前だよ、ユリア」
「え・・・え〜〜っ?!」

周りが驚いて振り向く程の大きい声を出したあたしを、シャンクスさんはおかしそうに笑う。

「そんなに驚くこたぁないだろう」
「だ、だって!いきなりそんな事言われたらビックリしますよ!」
「そうか?でも俺は本気だぞ?」

笑みを残して真面目な顔をするシャンクスさんに、また少し好きになった。

「初めて会った時から、ずっとユリアの事が好きだった」

あたしを真っ直ぐ見つめるシャンクスさんの瞳を、あたしは反らせない。

「ユリアに、船に一緒に乗って欲しいと思っている」
「・・・あたしが?船に?」
「あぁ。一生、ユリアと一緒にいたいと思っている」


どうしよう・・・
急すぎて、考えがまとまらない。


「ゆっくり考えといてくれ」
「え?・・・あ、はい」
「もう暫くこの島にいるから」
「・・・はい」

まだ、ドキドキしている。
不意に告白されたから、余計・・・

「ほら、買い物行くぞ」
「あ、はい!」

差し出された大きな手を、そっと握り返す。

「そういやユリア、昼メシは?」
「まだ、これからです」
「じゃあ、何処かで昼メシにするか」
「はい」


照りつける太陽の下、再び歩き始める。


「ユリア、」
「はい、何でしょう」

船長さんはあたしの方に顔を向ける。

「俺の事、そろそろ名前で呼んでくれないか?」
「・・・イヤですか」
「船長さんじゃ堅苦しいしよ」


名前で呼びたくても、今まで呼びづらかったんだよなぁ・・・

「シャンクス、さん」
「さんはいらねぇ」
「・・・シャンクス・・・」
「それでいい。あと敬語もなし」

そう言って微笑む彼の笑顔は、あどけなさを残しつつも格好いい。

「ユリア?」
「は、はい!」
「ユリアといると飽きなくていいなぁ」


・・・よく笑う。
シャンクスの笑顔が見たくて、シャンクスと話がしたくて、今までより仕事をするのが楽しくなっていた。
でもシャンクスがまた航海に出たら、もう会えなくなってしまう。

それは寂しい。



シャンクスと、ずっと一緒にいたいーー





「ユリア、ーー」


その瞬間、急に強い風が吹いたけど、シャンクスの言葉はハッキリと聞こえた。


あたしの心は、もう決まっていた。

〜 end 〜

切なくないお話をもう少し書けるようにしたいと思います。
最後までお読み頂き、ありがとうございます
(2019.04.30)

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