捨てる事の出来ない想い(完)

ドクンッーー

聞かれるとは思っていたけど、改めて言われるとやっぱり緊張する。

ドクンッーー

「・・・・・・いいの?あたし、船に乗ってもいいの?」
「勿論。うちの船員に断るヤツはいねーよ。むしろ大歓迎だぜ」

シャンクスは穏やかな笑みを浮かべる。

「お前が船を降りた二年前、皆から大ヒンシュクをかったんだぜ。毎日のようにブーブー言われてよ」
「そうだったの!?」

当然ながら、驚いた。

「ユリアを今すぐ連れ戻してこい。ユリアがいない船はつまらない、土下座して船に戻ってもらえってな」

皆・・・・・・

「さっきも、全部お頭が悪いんだからユリアに謝って連れ戻してこい、そんで船に乗せてやれって皆が言うんだ」
「そうなんだ・・・・・・」


皆、優しいなぁ・・・・・・


「シャンクス。あたし、船に戻ります。また仲間にしてください」
「ホントに戻ってきてくれるのか?」
「はい。ただし二年前と同じ事したら、その時はどうなるか分かってるよね?」
「はい、分かってマス・・・・・・」
「ベンにも言いますから」
「・・・・・・!!」


ユリアとベンには敵わない。俺は苦笑いする。

「そうと決まったら店に戻ろう。ユリアを改めて紹介しないとな」
「うん。でも、その前にマキノさんと皆に謝らなきゃ」
「そうだな。二人で土下座だな」

寄り添いながら、店へと歩き始める二人。

その頃の店では専らシャンクスとユリアの話題で持ち切りだった。

「あの二人、どうすんのかなぁ」
「ユリアの方が大人だから大丈夫だろうよ!昔はお頭なんか尻に敷かれっぱなしだったしな!」
「お頭、時々子どもっぽいもんなぁ!」
「そりゃ違ぇねぇ!!」


お頭、相変わらず酷い言われようだなーー

ベンは苦笑いしていた。


カランッーー

一斉に振り向くと、入り口には手を繋いでいるシャンクスとユリアの姿があった。

「手ぇ繋いでる・・・・・・」
「お頭、もしかして・・・・・・」

シャンクスは答える事なく、ユリアを連れて歩き出す。
カウンターまで行くと、まずマキノさんに向かって二人で土下座した。

「マキノさん、すみませんでした!」

同時に謝る二人に、マキノが慌てる。

「や、やだ!二人ともやめてください!あたし、そんなつもりで言ったんじゃ・・・・・・」
「謝らせてください」

引き下がらない二人に、マキノは困った表情を浮かべるが、すぐ笑顔になる。

「船長さん、ユリアちゃんの事宜しくお願いしますね。約束守ってください」
「はい」

次に二人は船員達に土下座して謝罪するが、皆に一蹴される。

「いいよ、お頭!ユリアを連れ戻してきてくれたんだ!仲間なんだろ?」
「あぁ、そうだ。今日からユリアはまた仲間だ!皆、宜しくな!」
「そうと決まったら宴だぁ〜〜!!」

店に、賑やかさが戻る。

「ユリア、また宜しくな!」
「うん・・・・・・!」

皆が、声をかけてくれる。

あたしはそっとカウンターに行き、改めてマキノさんに謝罪とお礼を言う。

「マキノさん、本当にごめんなさい。ありがとうございます」
「いいのよ。その代わり、今度はちゃんと幸せになってね?」
「はい」

今度はベンの所に行くユリア。
カウンターに座ったシャンクスは、ベンの隣に座るユリアを見て内心ヤキモキする。

「副船長、さっきはごめんなさい。またこれから宜しくお願いします」
「・・・・・・何かしたか?それより何だ、急にかしこまって」
「え・・・・・・だって副船長だし」
「昔は名前で呼んでた癖に。名前でいいよ」
「・・・・・・はい」

何かしたか?って、知らないフリをしてくれるなんて副船長らしい・・・・・・

その後、カウンターに座り、お酒を飲みながらシャンクスとマコトと話をした。

久しぶりに笑った自分に驚きつつ、夜中まで飲み明かした。

寝る為に二年ぶりに乗った船は、何ら変わっていない。

シャンクスはしこたま飲んでいたのに足取りはしっかりしていて、あたしを案内してくれた。

「ユリアの部屋は二年前と同じで此処だ。そのままにしてある」
「ありがとう。残しといてくれたんだ・・・・・・」
「当たり前だろ。マコトと俺が、またいつでも迎え入れてあげられるようにって言っといたんだ」

嬉しいーー

「今日は疲れただろうから、ゆっくり休め」
「うん、今日はありがとう」
「おぅ、おやすみ」
「おやすみ・・・・・・んっ!」

顎を軽く持ち上げられ、キスをされた。

舌が口の中に入ってくる。

「んっ・・・・・・はぁっ・・・・・・」
「久しぶりのユリアの唇は、やっぱり最高だな」
「シャンクスったら、もう・・・・・・」
「ダッハッハ!!これでよく眠れるぜ!」

シャンクスは笑いながら、自分の部屋へと歩いていった。
あたしはそっと部屋の扉を閉め、浴室へと入り軽くシャワーを浴びる。
綺麗な浴室は多分、いつあたしが戻ってきてもいいようにと普段から掃除してくれてたんだろうな。

明日から正式に再び始まる海賊としての生活に不安と期待を持ったまま、浴室から出たあたしは髪を乾かしてベッドに横になり、眠りに落ちた。


真夜中の船長室ではシャンクスとベンが話し込んでいた。

「ユリアに話してくれたんだって?愛ある説教をされたって言ってたぞ」
「あぁ。あんたがまたユリアを泣かせた時にユリアが船を降りないようにする為の予防策だ」
「・・・・・・」
「またあんた達の夫婦喧嘩に巻き込まれて凹まれても困るからな。次はないぜ」
「はい、分かってマス」


ベンを怒らせたら怖いしな・・・・・・

§


ああ見えてユリアは繊細だ。過去の事が原因で、大切な人を失う事を誰よりも恐れている。
それはマコトも同じだ。大事な人を失う恐怖や寂しさを誰よりも知っている。
だからこそ、俺達で守ってあげなきゃいけないんだ。
マコトは男だし、自分の身くらい自分で守れる。それにマコトはヤソップに何でも話をしているし、ヤソップも相談に乗ってやっている。俺にもたまに話をしに来てくれている。
だが、ユリアは女性だから俺達みたいにはなかなかできないだろう。それにユリアにはマコトしか何でも話せる相手がいない。
だから言ったんだよ、何でも相談しろって。お頭もユリアの事たまには気にして、話を聞いてやってくれ。
あとユリアとマコトの故郷のローズ村を襲った海賊団が、この辺をうろついてるそうだ。皆には知らせてあるし、マコトとユリアにも話してある。もしかしたらフーシャ村に来るかもしれん。

「分かった」

そう返事をすると、ベンは「明日は少し忙しくなるぜ」と言って部屋を出ていった。

§


ユリアとマコトの過去に関わる海賊団・・・・・・か・・・・・・

ユリアとマコトが暴走しなけりゃいいが、要注意だな。

部屋に一人になったシャンクスはベッドに横になり、天井をボンヤリと見つめているうちに眠りに着いたーー


船の外は、漆黒の闇と暗い海が月に照らされているーー

〜 end 〜

お読み頂き、ありがとうございました。
(2016.9.28)

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