:家庭教師ヒットマンREBORN!
:沢田綱吉(+10)
幾度も繰り返される発砲音の最中、鼻をつくのは嫌いな火薬臭。
只でさえ慣れない銃の扱いだ。引き金を引けど震えの止まらない手では標的に当たる筈もない。華麗に避けていく依泉の後には、後ろの壁ばかりが小さな穴を残していく。そして、次の瞬間……
「良い?ツナ」
ゴク、と口内に溜まった唾を飲み込む。形勢は一瞬にして逆転された。オレは今冷たいコンクリートの床に横たわっていて、組み敷き脳天に銃を突き付ける依泉が睨む様に此方を見据えていた。
「銃は向けたら、撃つの。どうしてか分かる?」
ゆっくりと首を横に振るのを確認して、依泉はオレから目を離さずに冷たく微笑んだ。
「撃たないと撃たれるからだよ」
銃を向けるという事は、つまり相手に敵意を向けるという事。反撃される前に攻撃をする。
この世界で生き残る為には、嫌でもそういう事を身に付けなきゃいけない。
オレも依泉に銃を向けているが、今の状況じゃ当分撃てそうにない。依泉はリボーンも言ってたでしょ?と続けて口を動かす。
「ツナはボンゴレのボスなんだから、滅多な事で死ぬような事があっちゃいけないの。銃くらい使いこなせなきゃ……もし死ぬ気になれない時どうするの?」
「そ、れは……」
「今の状況だってそう。無駄死になんて以ての他よ」
そこまで言って依泉は銃を持つ手に力を込めた。オレは反射的に目を瞑る。撃たれる!
不吉な発泡音の後には、弾丸が身体を突き抜ける感触などなくて、派手な音と共に届いたのはベショッと不快な音と水をぶっかけられたような感覚。
「うわっ!?」
思わず目を開けた先ではニマリと依泉が笑んでいて、ようやく気付いたのは、これが人を殺す為の弾なんかじゃなかったって事。
「残念、ツナ。一回死んじゃったよ」
そう言って依泉はオレの上から退いた。流石リボーンに続く最強ヒットマンとうたわれるだけの事はあり、銃口だけはピッタリとオレを見つめている。
「言った事、分かった?」
「は……はい!」
どもりながらのオレの返事を合図に今まで張り詰めていた緊張感が、戦闘中には決して見せない彼女の柔らかな笑顔によって消え去る。
「よし!それじゃあ今日の修業はおしまい。食事行こっか」
「うん!」
レストランの席で、オレはテーブルに肘をつきながら大きく溜め息を吐いた。
リボーンがいたらテーブルマナーがなってないとかで殴られるところだが、そこは長きに渡り先代達が築いてきたボンゴレの権力の賜物か。言わずともVIP席に通された事で、オレのだらしない姿を見られる相手は目の前にいる依泉だけだ。
「どうかした?ツナ」
「……いや、不服でもボスになったからには頑張ろうと思ってたんだけど」
結局ダメダメだなと思って。深く溜め息を吐いたオレを、努力が大切なのだと励ましてくれる依泉からは柔らかい笑みがこぼれる。修業の時の冷たい表情と違う、綺麗な笑みだ。
「でも、まだまだ依泉に適わないや」
「そう?」
修業だって依泉はペイント弾使ってるし……って、そうだ!
「オレ、撃たれるまで実弾だと思ってた!」
先刻の修行タイムで発覚した思わぬ事態に立ち上がらん勢いで声を上げれば、依泉はけろっとした様子で「言ってないからね」と告げた。オレとしては何で!?と問い詰めたいところ。
「お陰でオレ、修業中手震えっぱなしだったんだけど!」
少し恨めしくなって言えば、依泉は困ったように苦笑する。よくよく考えれば自分の小心さを暴露してしまった訳だが。
「実戦の気持ちでやってもらわないと。あれじゃ緊張感無いでしょ?」
でも、と反論しようとするオレの声を遮った依泉は、リボーンと同じ一流ヒットマンであり、リボーンと違う穏健派だ。ついでに言えば口喧嘩でも勝てないオレに、反論の言葉はもう出てこない。
言い訳の様に銃の扱いが馴れない、落ち着かないと呟けば、まだまだ半人前のボスだと笑われる。
「銃は簡単に人を殺める事ができるけど、それは使用者の使い方次第でどうとでもなる。誰かを傷つける代わりに、誰かを守る事だってできる。私達は持ってて落ち着くくらいが良いんだよ」
覚えておいてね。と付け足した依泉は真剣そのもの。分かる気がした。銃を武器とする人達にとってそれは必ずしも凶器ではない事。オレがグローブで皆を守ろうとするのと同じって事。
「……うん」
少しずつこの修行の意味が分かってきた気がする。意識しない内に頬の筋肉が緩まっていたのが、心にゆとりができた証拠だ。実感を噛み締めるオレの前でご馳走様、と言って彼女が唐突に席を立った。
「お先に失礼するね。ペイント弾付いてるから、髪ちゃんと洗いなよ」
「うん、修業付き合ってくれてありがとう」
何も彼女の強さは実力だけじゃない。明日も宜しくと挨拶を交わした後で、思い出す様に明日の天気に注意せよと助言を来した依泉は超直感ならぬ第六感が非常に優れていて、その信憑性は彼のランキング王子に次ぐものだった。それこそが彼女の優しさをカバーする最大の力である。
今度こそ歩き出した依泉の、キビキビとした後ろ姿が見えなくなるまで眺めてみる。それからいつもの調子で伸びをしながら、オレはもう一度明日も頑張ろう、と自分に言い聞かせたのだった。
その『明日』がどういう日になるのかなんて、全く予想もつく事などなく。
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