「ツナ、修業を忘れたの?」

安全装置を外す音がやけに耳に響く。依泉がか細い腕の先に持つ重い銃はオレに向けられていた。…修業でやった時と同じ様に。

「銃は向けたら撃つんだよ。例え相手が誰だろうと、自分に危険が及ぶなら」
「依泉、どうして……!」

あんなに優しかったのに、あんなに笑いかけてくれたのに!なのに今、彼女はオレに修業と無関係に銃口を向けている。

「どうして……?ツナこそ。どうして撃たないの?」

その言葉にオレはどう返せば良いのか。どうすればこの状況を打開できるのか。何が正しいのか。
そんなものオレにはこれっぽっちも分からない。


(良いか、ダメツナ。)

こんな時に、突然数週間前のリボーンとの会話が脳裏に浮かんだ。

「覚えておけよ。銃を敵に撃つ時、狙う場所は絶対心臓だぞ」

理由は簡単。当たれば即死、外しても身体の中心だから、どこかに当たる可能性がある。
リボーンは黒光りする愛銃を手入れしながら、オレの方を見る事すらなくさらりと言ってのけた。オレは銃なんて触った事もないし、これから使うつもりもない。そう言えば馬鹿かお前はと罵られた。納得いかない。

「そんなだらしねぇマフィアのボスがあるか。扱い方や知恵くらい知っとけ」

嫌な予感がする……いや、直感か?まさか、またリボーンの修業とか言わないよな?そんなならお兄さんじゃないけどスパルタで死ぬ!悶々と結構失礼な考えを巡らせていると、リボーンが残念だったなと口を挟む。あれ……今読まれてた?しかし幸いな事に、どうやらリボーンは明日から暫く出張らしい。

「やった!」
「なんか言ったか?」

チャキッ

「何でもないです!」

嬉しさあまってとんでもない反応をしてしまったオレは途端に後悔する。即答で否定すると、リボーンは呆れ返った表情でオレに向けた銃をしまった。……何かムカつく。勝てないから何も言わないけど!

「……代わりに知り合いの女にお前の指導を任せた」
「女って……まさかラル?」
「違ぇぞ。俺に並ぶ銃使い、お前も名くらい知ってる筈だ」

そして出会ったのが依泉だった。彼女は初めて逢った時も綺麗に笑っていた。

「宜しくね、ボスさん!」



「た……質悪い冗談やめろよ。何これ?今日はいきなり修業始めるの?」

ここはオレの個室だ。修行ならこんな場所じゃなくトレーニングルームでと、無理矢理に明るく話すのは今の状況を肯定したくないから。頼むからどうか、冗談と言って。

「ツナ、これは冗談でも修業でもないよ」

オレは絶望した。依泉の目は本気だ。何も言えないでいると、依泉はゆっくりと銃を構え直した。依泉の目は冷酷で、銃を扱う手つきだって誰が見ても手慣れたものだ。余計に実感させられる。
彼女は“殺し屋”なのだと。

「撃たないなら……こっちが撃つよ?」


銃は向けたら、撃つんだよ。


「そんなの、オレは……」
「良いの?もたもたしてるとツナが死ぬよ。大事な仲間を残して」


狙う場所は絶対心臓。当たれば即死、外してもどこかに当たる可能性がある。


「……ッ、そんな事できないよ!」

大体何で?どうして依泉を撃たなきゃならないんだよ。そうだよ、そんな事をする理由も意味も分からない。どうして依泉は、オレを殺そうとする?
もう何も信じたくなくて、現実を拒もうと足掻くオレはきっと物凄く情けないだろう。頭の中でリフレインされた言葉が消えない。けどやっぱり、もう分かっただろリボーン、依泉?元々オレにマフィアのボスなんて無理なんだよ。
依泉は呆れ返ったように溜め息を漏らし、冷たく言い放った。

「……私が敵に雇われてるとしても?」
「…………え?」
「フィロファミリー。質の悪い輩ばっかりの卑劣で低俗なファミリー。ツナが今、シマ荒らしの件で一番手を焼いてる奴等だよ。それくらい分かるよね?ツナにとって疎ましい存在なら、相手からすればツナだって疎ましく思われてるってくらい」

依泉がフィロファミリーに雇われた?何だよそれ、どういう意味?雇うって?
だって依泉は……依泉は、ヒットマンだ。

「……うそだろ」

さあ、どうかな?そんな答えにもならない台詞で依泉はいつもと違う笑みを浮かべる。
思考が上手く回らない。混乱してきた。どうすれば良いんだ?こんな時リボーンがいれば……そう思うオレは中学の時から全然成長してない。

「話すのも飽きてきたね。そろそろばいばい、ツナ」
「っ、うわぁああ!」

ズガンッツ

依泉の持つ銃の先から弾が飛び出し一直線にオレに向かってくる。
恐怖からか精神的にも限界だったのか、無意識の内にオレは叫びながら手中にある引き金を引いてしまった。

2 / 3 | |

|


OOPARTS