:D,Gray-man
:アレン・ウォーカー
時刻はとっくに夜中の12時を回っている。この時間帯活動しているのは科学班の作業室くらいだ。大抵の人も部屋も機能を停止していて、静かな教団の廊下で僕は身を潜める様にして息をする。そろそろだろうか。
……――コツン
あぁホラ、狙い通りだ。階段を下る一つの靴音が暗闇に響く。注意はしている様だけど、その申し訳程度についているヒールが無音を不可能なものにさせている。いい加減学習したら如何です?
白衣を身に纏った人物は目的階に着くと一度辺りに注意を払う。誰もいない事を確認し、ようやく扉の目の前まで来た“彼女”は嬉しさのあまりもう警戒する事を忘れてしまっている。ここまで寸分狂わず同じ行動をされては苦笑しか出なくなるけれど、こちらとしては好都合だ。気配を殺し足音など勿論立てず、僕は彼女の背中を追う。
ちょうどその手が目前のドアノブを捻ろうかという瞬間、
「依泉!」
「きゃあっ!」
声をかければ目の前の人は大袈裟な程飛び上がる。縮こまった肩越しに覗く顔は正に“しまった”な表情で、呆れるあまり溜め息をついてしまうのは仕方ない。何せ僕は教団内において、彼女のストッパー役を任されているのだから。
「……こ、こんばんはアレン。こんな時間に奇遇だねぇ」
「何してるんです?こんな所で」
こんな、コムイさんのプライベート実験室の扉の前で!幾度彼女にこの質問を投げ掛ければ済むのだろう。
笑い切れていない引きつった表情で「好奇心を満たす為の冒険」だなんて訳の分からない事を返されるのすらお決まりである。
「……僕との約束覚えてますよね?」
「勿論!」
1、無許可で教団から出ない
2、皆さんの仕事の邪魔をしない
3、室長のプライベート実験室に潜入しない
4、変な発明品を造らない
エトセトラ
守れているかともう分かりきった質問をすれば依泉はどこから沸いてくるのか自信満々に肯定しようとする。勿論言い終わる前に笑顔の圧力をかけて撤回させたのだけど。
「ごめんなさい」
「……あんまり心配させないで下さいよ」
顔を俯けた依泉は反省しているようで、先程までと打って変わったしおらしさにぽん、と頭を撫でてしまう。そのまま大人しく引き下がり自室へと戻る依泉は大変宜しいが、それも明日になれば忘れてまた同じ事の繰り返しだろう。これは断言できる。
なんせ彼女は初対面から目の離せない、大変な問題児だったのだから。
「大丈夫ですか?」
「……え」
僕と依泉の出会いは黒の教団からそう遠くない街での事だ。今から半年程前。アクマ退治の任務で訪れたそこで不運にもアクマに目をつけられたらしい彼女は、それはもう光の速さで背後からの攻撃を避けていっていた。その光景といえば今でもしかと僕の目に焼きつけられていたりする。
“人間の魂と機械を融合させた殺人兵器”。そう説明をした僕に対して、依泉はあり得ない反応を素で成し遂げてみせた。
「サイボーグみたいだよね!」
「……はい?」
勿論殺人衝動を除くけれど、死者の魂を他の器に移して、生き返らせる事ができたら素敵。科学のロマンだね!
それが依泉の感想だった。開いた口が塞がらないとはこういう事だろう。
「殺人兵器ってプログラムさえ何とかすれば最高だよね!」
まさかアクマの説明をした結果がそんな風に解釈されるだなんて。普通なら恐怖に塗れた表情をするのに、殺されかけた人なら尚更だ。なのに彼女はまるで逆で、無邪気な子供のように目一杯瞳を輝かせていた。
その時発覚したのは、彼女は相当な科学オタクだったって事。
「とにかく、もしまた遭遇する事があっても逃げて下さいね」
「あいあいさー!」
僕が念を押して言った事に対して、依泉は素直に返事をしてくれた(この際その台詞についてはツッコまないでおく)。これで警戒心皆無な彼女でも一安心。
そんな考えは全く甘かったと気付くのは、それから数ヶ月と経ってからの話だ。
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