何の因果か。僕はその日同じ街に、同じ任務を受けて訪れていた。
アクマの数は少なく倒すのに時間は要らなかった。やけに呆気ない任務だなと思いながら僕は左眼の示す最後の1体を探していたのだ。
「…………は?」
どうにも間抜けな声を出してしまった。見つけたアクマの近くには人影がふたつあった。それはノアの一族のロード、そして何故だか依泉がいた。これは感動の再会の場面などではない。
一人はブツブツとアクマを睨み付けながら手元の紙に何かを書き連ねていき、もう一人はその様子をさぞかし愉快そうに眺めていた。
「いやいやいや……何してんです!」
その場にいる面々に呆気に取られていたが、我に帰った僕に気付いた二人はのんびりと振り返った。依泉に至っては笑顔で久しぶりだね〜なんて言っている。何だこの光景。依泉がアクマに襲われ……いや、寧ろ依泉がアクマにまとわりついている。
「依泉!何してんですか!?」
「何ってアクマ観察?」
彼女は何の悪怯れも無く言って持っていた紙をこちらに見せた。そこには言葉からしてアクマのデータだろう文字の羅列が並んでいる。読む気はない。
「依泉!どういう事かちゃんと説明……」
「アレンの友達っていうからちょっと遊んでただけだよぉ」
キッと声を引き締めるが依泉よりも状況を数段理解しているロードが説明を付け足してくれた。あれ…僕の味方はどっちだっけ。前が霞んで見えないや。
「本当は飽きたら殺すつもりだったんだけどねェ」
ロードの甲高い笑い声が響く。さてと呟く声と同時に何の変哲もない地面から手品のように大きな扉が出現した。前にも見た事がある。空間移動のできる、ロードの能力だ。
「……良いんですか?僕達を殺さなくて」
「面白かったし、今日は帰ってあげる。アクマももうコイツしかいないんでしょお?」
次逢ったら殺すけどねぇ。そう言ってロードはアクマと共に扉の奥へ姿を消した。僕はそれに少し安堵する。
隣からの「ロードちゃん、ご協力ありがとう!」という依泉の場違いな声を聞きながら。
「依泉……どうして約束破ったんです?」
どうして逃げなかったのか。聞けば彼女は自覚があるのか少しだけ罰の悪そうに、目の前のチャンスを無駄にする訳にいかないと答える。なんて事だろう。もしロードの気紛れがなければ、もし僕がもう少し遅ければ、彼女は殺されていたかもしれないのに。彼女の飽くなき探究心は、危ない。
「僕だってそう何度も都合良く助けに行けないんですよ。今日だって本当に偶然の任務で来たんですから」
「……ごめんなさい」
依泉が俯いて消え入りそうな声で言ったから、逆に焦ってしまった。言い過ぎたろうか?そう思う反面頭は他の事に思考を回す。これは確信に近い直感だ。依泉のこれは治らない。
「そんなにアクマの事を研究したいなら、黒の教団に来ませんか?」
「え?」
依泉はぽかんとしていて、理解が追い付いてないようだ。同様に僕も自分の言動に驚いていた。
勝手な事をして後でコムイさんに注意されるかもしれないけれど、見捨てられる訳がない。既に彼女は黒の教団を知ってしまっているのだから物は試し、言うだけ言ってみようじゃないか。このままここに置いていけば、きっとまた彼女は危険な目に合ってしまうだろうから。
「アクマに関してなら専門的に調べる事ができるし、ノアに見つかったからには教団にいる方が安全です」
そう、これは保護であって、私情じゃない。心のどこかでそう言い訳していた僕もよっぽどかもしれない。
「ん〜……でもなぁ」
「気に入りませんか?」
そうじゃなくてね、と依泉は少し考える素振りを見せてから、納得したようにへらっと笑った。
「私、フィールドワークが好きなんだ!」
それから約30分間彼女を必死に説得し得たものは、今後の苦労人生への片道切符である事をこの時の僕はまだ知らない。
Go steady go!
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題訳:しっかりと進め
初アレン夢!
執筆2008.06.03.tue
加筆2009.05.23.sat
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