『雲雀 恭弥』と夏休み!
「夏です!」
「知ってるよ」
「夏といえば海ですよね」
「安易だね」
「やっぱり遊びたくないですか?」
「別に」
冷房の働く室内はひんやりとしていて、ちょうど良い温度を保ってくれている。けれどやはり夏らしく日差しは強く、蝉の鳴き声が閉めきった窓の外からでも煩く聞こえる。トン、と手元の書類の束をひとつ片付けては漏れる溜め息に、勇気を出した私の努力は見事撃沈。
「……はぁ」
あぁ、またひとつ幸せが逃げていく。私としては夏休みは一年で最も……最も楽しみで止まない時間なのだ。それはもう毎年始業式を迎える度に次の夏のプランを考え出す程に。
エンジョイ、夏!
なのに今年はそれができない。はしゃげない。何が不満かって、どうして昨日終業式を終えたばかりというのに私は学校にいるのかって話だ。その原因は全部全部、全部!
「あの……帰って良いですか」
「ダメ」
私の所属する風紀委員にある。というより、目の前の風紀委員長様に。“ハメを外した群れの集る時期”を理由に私のスケジュールは委員会、委員会、委員会。風紀に休みなんてないと毎日出勤は大変立派だけれど、私まで休みを削られる謂れはないのに。
何故って草壁さん以外のリーゼントの皆さんは夏休み学校に来ないじゃないですか……ってすみません何でもないです!
ギラリと鋭く光った彼の瞳に、未だ私は身震いを隠せない。並中の風紀委員は不良の集まり……否定はしないが、少なくとも自分は違うと言っておく。そもそも委員だってやりたくてやってる訳じゃなく、絡んできた不良達をちょっと小突いてたら運悪くそれを雲雀さんに見られた挙げ句気に入られて断れなかっただけで基本私は争い事だって嫌いなタイプなんだ。(の……ノンストップ!)
だからふと、本音が溢れてしまった。
「普通の女の子生活したい、なぁ」
「……」
ガタリ。突然雲雀さんが心地の良さそうな椅子から立ち上がる。声をかけるも見向きもされない。もしかして気を悪くしただろうか。結構繊細だったりするからなぁ。怒って攻撃してくる事はないと……思いたい。
自分自身の嫌な想像に顔を青くさせていると、雲雀さんに声をかけられる。行くよ、と。
「……へ?」
「コンビニ。頑張ってるご褒美にアイスでも奢ってあげる」
珍しい、と思うのは失礼だけれど、まさか雲雀さんから率先してご褒美なんて言葉が出るなんて。コンビニとか……奢るとか!何かの間違いじゃない?
「何突っ立ってるの、行かないの?」
「、行きます!」
けれど風紀の皆にはこういう優しさがあるから、本当に嫌いにはなれないんだよなぁ。
早くしてよと声色はいつもと同じなのに、少しだけ優しく笑んだ雲雀さんに見惚れてしまったなんて口が裂けても言えない。
私は急ぎソファから立ち上がったその足で雲雀さんの隣に並ぶのだった。
憂鬱で楽しい、始まりの日の事でした。
夏休みはまだまだこれから!
執筆2008.07.22.tue
加筆2009.05.24.sun
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