『神田 ユウ』と夏休み!


食堂というのは、幅広い人間が利用する公共の場所である。
昼食の乗ったトレーを料理長から受け取り、まだ片手の指でも余る程しか利用した事のないその場をぐるりと見回した。室温もさる事ながら食事時の込み合った時間帯に来てしまった事にうんざりしながら席を探す。出来るだけ人の少ない方へ。そう思い動いた身体は先程まで無かった筈の思いがけない壁と衝突する。

「あ、」

ガシャァアンッ

派手な音が響き、それを目の当たりにした周りの者達の顔がみるみる青ざめていく。しまった。誰か人にぶつかってしまったらしい。

「チッ……オイお前、大丈夫かよ」

ぶつかった人物を見上げれば、そこにいたのは髪を高くでひとつに結わえた青年だった。その人はいかにも不機嫌に顔をしかめていて、怒りを何とか抑えてるように見える。ていうかなんで私が舌打ちされなきゃならない。

「すみません、余所見してました」

私は己の持論にとても自信を持っている。口から漏れる謝罪は気のないものだけど、大抵の事ならばこれで十分許される。世界は実に上手くできている。食事は何とか無事だったらしく、さっさと立ち去ろうと踵を返したが残念ながら相手に声をかけられてしまった。

「見かけねェ顔だな。昨日入った新人か?」
「そうですけど……?」

だったら何なんだ、私は早く昼食を食べたいのに。じとりとそんな視線を向けるが彼には効果がないらしい。
昨日此処に来たばかりの私は科学班にいた人間と料理長以外の知り合いはいない。

「……あぁ、依泉です初めまして?」

コートを見る限り同じ“エクソシスト”という事が理解できた。もしやと思い自己紹介をしてみたが、目の前の人物に常識は通用しないらしい。馴れ合うつもりなんざねぇって、ならどうして引き止めたんだか。名前くらい名乗れと言えばぶっきらぼうに、更に言えば嫌そうに言われた名字は聞き覚えのあるもの。

「神田だ」
「え」

カンダ?神田?
……あぁ、何処かで聞いたと思えばリナリーやコムイの言ってた青年エクソシストの事じゃないか。冷徹無情な奴だから気をつけろと言われたような。

「あー……神田、確かに」
「は?」

一人納得していると自分の名前が出された事が気になったのか、神田がぴくりと反応を示す。そんな彼の前に私は掌を差し出し、握手を求めた。誰がするかとその場を後にしようとした神田に溜め息が漏れるが、存外悪い気はしない。そう、それでこそ冷徹無情の名に相応しい。

「今はそうでも、神田は必ず私に心を開く」

周囲の団員引っくるめて私以外が全員何を言ってるんだみたいな顔をしているが、断言できる。見つけた。この規則に煩そうな教団で社交気にせずやってけそうな奴。


敵か、味方か。

心を開くのと仲良くなるのとは別物で、私の神田への期待は分かりやすく言えば「喧嘩友達」に近い価値感を見い出したに過ぎないのだけど。


執筆2008.07.22.tue
加筆2009.05.24.sun

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