「とにかく早く治療しなきゃ!この近くだと、トキワシティのポケモンセンターで治療してくれるわ。早く!」
「病院、あるの?」
「ポケモンのね!」
「あ……で、トキワシティってどっち?」
「あっち!」

女の子が指さした方を2人で見た後、何やら聞き覚えのある鳴き声にそちらを向くと、オニスズメの大群が向こう岸からやってきていた。まだ追いかけて来ていたらしい。

「うそだぁ!しつこいよ!」

流れの速い川に流されて姿だって見えなくなっただろうに、それでも追ってくるオニスズメには執念すら感じる。
どうしよう、サトシ!なんて振り向いた先にサトシの姿はなく。気付けば岸から少し離れた道に停めてあった、恐らく女の子のものであろう自転車の前カゴにそっとピカチュウを乗せて、今にペダルを踏みだそうとするところだった。

「ちょっと!」
「えっ待ってよサトシ!」
「借りてく!ピカチュウを早く病院に連れてかなきゃ!オニスズメも追ってきてるし、シイナは後から来いよ!」

ぐったりしているピカチュウの様子は一刻を争う緊急事態だ。後から来いって言われても、1人で野生のポケモンに遭遇して、万が一さっきみたいな事になればどうしたら良いの!なんて事を考える余裕はない。ないけれど、それでも戸惑ってしまう。
そんな事など露とも知らず、ピカチュウの容態しか気にしている余裕のないサトシには2人の声は届かず、そのままトキワシティを目指して自転車を疾走させた。

「もー!」

呆然と見送った後、女の子は腕を腰に当てていかにも怒ってます!という気持ちを声と態度で表した。
オニスズメは私と彼女をスルーして、自転車を走らせるサトシの後ろを追いかけて行ってしまった。

「あの、サトシ……彼が色々迷惑かけちゃったみたいでごめんなさい」
「……貴方、アイツのカノジョさん?」

サトシの不躾を拭う為に恐る恐る声をかけると、意外だったのか女の子はきょとんと表情を変えた後、顔を顰めた。

「え!?いえ幼馴染みです。でも今日からは一緒に旅をする仲間かな?」
「今日から!?どーりで……」

よくあんなのと一緒にいられると思ったけど、そしたらもう慣れっこなのねーと納得したように言われた。なんだろう、馬鹿にされてる?

「ま、いいわ。自転車に関しては、ピカチュウの怪我に免じて」

ちゃんと帰ってきさえしたらね!女の子はさっきまでの表情と打って変わって笑顔でウインクした。最初見た時が物凄く怒った表情だったけど、免罪符をもらえたようでホッと息を吐く。その笑顔は綺麗な顔つきも相まって、女の私からしても可愛いなと思えるものだった。

「ありがとうございます!盗るような奴じゃないって事は、私が保障します」
「はは……そうみたい。怪我させたって言っても、初日みたいだし、必死に走ってったんだもんね。それに、貴方も良い人そうだから、きっとそんな子の幼馴染みなら大丈夫って信じるわ」

フッっと苦笑されたが、なんだか今度は私の事を褒められたみたいでこそばゆい。

「あたしはカスミ。貴方は?」
「シイナです。……カスミちゃん?さん?」
「カスミで良いわよ。敬語もいらない。今日から旅って言ってたし、タメでしょ?」

どうやらカスミは大人びている印象を受けたが、私とサトシと同い年の10歳らしい。
それはそうと、風邪引くわよ!と言ってタオルを貸してくれようとしたカスミに、自分のがあるからと断ろうとして気付く。

「あーっ忘れてた!荷物びしょびしょだあ」
「当たり前じゃない……」

水を吸ってどっしり重くなった鞄から、着替えは水気を適当に絞って、自分の体も拭かずにカメラ道具が無事かを確認する。

「写真好きなの?」
「写真撮る為にサトシ……あ、さっきの男の子の旅に着いてきたんだぁ」

ひょっこり後ろから覗いてきたカスミに目も向けずに返事を返す。カメラの細部まで水気を拭き取り、起動してみるとちゃんと動いた。

「試し撮り!はいポーズ」

カスミに向けてシャッターをゆっくり目に切ると、彼女は戸惑いながらも意図を理解したらしくちゃんとポーズをとってくれた。良かった。ちゃんと動いてる。

「よしっじゃあ私も行こうかな!」
「待って!」

鞄に荷物をもう一度詰め込んで、急いで立ち上がる。サトシはオニスズメに捕まらず、ちゃんとトキワシティについたのかな。そんな事を考えながら歩き出したもののカスミから声をかけられて振り返ると、ばさっと小さめのバスタオルが降ってきた。

「もう、ちゃんと自分の体拭いてないでしょう。それあげるから、ちゃんと乾かす!」

肘から地面へと水が垂れ落ちて、そう言えばと思い出す。女の子らしい気遣いにお礼で返し今度こそ走り出せば、後ろから「私も後から行くからね」と声が聞こえた。


あんなに晴れていた空模様が怪しくなって、間もなく激しい雨が降り出したけれど元々水に濡れている私は迷わず走り続けた。ゴロゴロと雷雨の中、すぐ傍に木すらない野原を駆けるのは少し勇気が要ったけれど、それでも構わず走り続けた。そうしてどれだけ走り続けた頃だろう。
長いようで短い野原を抜けた頃、気付けばいつの間にか雨は上がり、暗く空を覆っていた雲も見る見るうちになくなっていった。通り雨だったらしくすっかり太陽に照らされると、雨で再び濡れた体が芯から冷えてしまったのがよく分かった。

「サトシ!ピカチュウ!」

土の地面の上にボロボロで横たわる1人と1匹が見えて、どきりと走ったせいか焦りからか動悸がする。声をかけると身動ぎして、うっすら目を開いたサトシに余計体を揺さぶる。

「しっかりしてサトシ!なんでこんな……オニスズメに捕まったの!?」
「シイナ……?さっきの鳥ポケモンは?」
「え?オニスズメならもういないよ」
「オニスズメじゃなくて……」

ぼんやり虚ろな目付きのサトシは寝惚けているのか鳥ポケモンがと繰り返し呟く。

「ぴ……」
「ピカチュウ!」
「……ぴか」

続けてピカチュウが目を覚ましたかと思えば、声をかけるもぐったりとしてまた目を瞑る。2人とももう限界なんだろう。こんなところにいないで、消耗している2人を早く安全なところに連れて行かないと。オニスズメだってもう追ってこないかなんて分からない。

「行こう。ピカチュウ、サトシ」

ピカチュウを抱きかかえて、可哀想だけどさすがに運べないサトシの意識をしっかりさせて肩を貸して歩かせる。
ちゃんと私がトキワシティまで連れてくから、あともうちょっとだけ頑張ってよ、サトシ。


2013.08.18.sun

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