「よーし今度こそ!」
「ダメだってばサトシ!」

また手ごろな小石を拾い上げて、制止も聞かず向こうにいるポッポらしき影にそれを投げつける。その影がなんだか丸っこいフォルムのポッポにしては棘々しさがあるような気がして気になったが、それよりも石を投げるなんていくらピカチュウがバトルしてくれないと言ってもポケモン虐待なんじゃないか。
さっきよりちゃんと一点に狙いを定めた石はその頭にぶつかってしまう。痛そうにたんこぶをこさえて、こちらを睨みつけたポッポはけれど、どうやらポッポとは違ったらしい。

「……アンタ誰?」

鋭い眼光で睨み付けられたにも関わらず、呑気にポケモン図鑑を開いたサトシに機械音声はやはりアンラッキーな情報を教えてくれた。

≪オニスズメ。ポッポと違い気性が激しく、人間や他のポケモンに襲い掛かってくることもある≫

これはマズったとサトシが顔に出す頃には既にオニスズメは臨戦態勢で、こちらに駆けて来ていた。カメラ構えてる場合じゃなくなってきたかもしれない。木の近くまで後ずさった後間一髪で避けたサトシに対しオニスズメは何度か空中飛行しながら突進を繰り返す。

「待って待って!うわ、わわ!」
「シイナ!」

サトシと近くにいる私とを攻撃していたオニスズメ。カメラをまだ片付けていなかったので、その鋭い嘴が当たると傷がついてしまう!なんて私も中々呑気に考えていたけれど、オニスズメはその木の上にサトシのピカチュウがいる事に気付いたらしい。
狙いを変えて今度はピカチュウに突進し出した。慌てて避け続けるピカチュウだが、オニスズメはその下にいるサトシに見向きもしなくなる。どうやら野生のポケモンは、人に飼われるポケモンに敵意を燃やす傾向にあるらしく、主人のやらかしたツケが今ピカチュウに回ってしまったようだ。

「ちょっと待てよオニスズメ!石を投げたのは俺だ!」
「ぴっ!」

サトシの声も無視なオニスズメから逃げ惑うピカチュウは足を滑らせた。腕力だけで枝に掴まっている状態で、助けようにも私の身長では手が届かない。一応落ちた時の為に落下地点に立つものの、次にオニスズメが来たらピカチュウは避けられないだろう。

「ピカチュウ!」

真下にいる私にもやはり目もくれずに、当然のようにオニスズメとピカチュウの距離が縮まっていく。上を見上げる私の視界にその時黄色い電光が走り、ピカチュウの体から発したそれはオニスズメにぶつかった。サトシが今朝から何度も食らっているピカチュウの十八番技、電気ショックだ。

「や……やるぅ」

攻撃を終えたピカチュウはそのまま枝から手を放し、間近の光にくらくらしている私の伸ばしたままだった手の中に落ちてくる。対してオニスズメは電撃のショックで体が痺れ地面に落ちてしまい、一拍置いて体制を整えたかと思うと、涙目で明後日の方向へ大きく一声。どうやら住処である木に向かっていたらしく、そこから間もなくして数十羽に上るお仲間が姿を現した。
これにはサトシどころかピカチュウもかなり焦っている様子。

「うそぉ……っ!」
「……逃げる?」
「ぴかちゅう!」

荷物を全部持って野原を一目散に駆ける。このままではいずれ追いつかれるのは目に見えているけど、あの数を相手じゃ今は逃げる以外方法はない。

「がんばれよピカチュウ!シイナ!」

全力で走っている中でも声掛けをしたサトシに対して、ピカチュウは我先にと足を早める。けれどそれ以上に飛行速度を上げたオニスズメは一番先頭を行くピカチュウに寄ってたかって攻撃をする。何匹かが邪魔するせいで私もサトシも中々ピカチュウを助けに行けない。先にそれを抜けたのはサトシで、倒れたピカチュウの周りにいるオニスズメ達を追い払って、ピカチュウを抱きかかえる。

「逃げるぞ!」

走り出す前に無理矢理腕を引っ張って私もオニスズメ達から脱出させてくれたサトシと再び走り出すも、少し走るとその先は川に繋がる小さな崖となっていた。万事休す。これはもうどうしようもない。

「ええい、行っちゃえ!」
「嘘でしょ!?」
「モタモタしてられないだろ!ほら行くぞ!」
「待ってよ!だってサトシ……ちょ、わっ!」

ぐいっと腕をまた引っ張られ、サトシが川にダイブする勢いで強制的に私も落ちた。だってカメラ!私の鞄には大事な精密機器達が!
ボチャンと前から思い切り大きな音がしたかと思うと、次の瞬間には私もダイブ。流れが結構早いらしく、そのまま水中に慣れるより早く流されてしまっている。
ようやく何とか開いた視界で、サトシ達より先に姿を確認したのはなんと、自分より何倍も大きなポケモンの姿。水中にもかかわらず悲鳴を上げかけるも、サトシが素早く泳いで避けてくれた事により、向かってくるポケモンをなんとか回避できた。

狭い川からいつの間にか広い水域に出ていて、流れもさっきより随分落ち着いている。ピカチュウを抱えたサトシの負担にならないよう、手を放してもらって自分でちゃんと足を動かす。
ちょっとだけホッとしたのも束の間、目の前にいたサトシが急にもがいて、有り得ない進路で視界からそのまま消えてしまった。

「!?」

サトシを探すのに水面から顔を出す。大きく呼吸をすると同時に咳き込む。やはり心の準備ができる前に水に飛び込んだのは辛かった。辺りを見回すとすぐそこにあった海岸にサトシとピカチュウが打ち上げられていて、サトシが何故か見慣れないオレンジの髪の女の子に平手打ちを食らわされたところだった。

「どうしてこんな目に合わせたのよ!」

どういう状況なのか分からないけれど、私の姿に気付いた女の子が面食らったようにこちらを見つめる。初対面の子に見つめられるという居心地の悪い状況の中、岸に上がり絶え絶えの呼吸をゆっくり整える。

「また人が……!もう、どうなってんのよ」
「シイナ!大丈夫か?」
「なんとか……あっ!ピカチュウは!?」

見るとサトシの腕に抱えられた見るからに弱った姿のピカチュウがいて、私の登場に驚いていた女の子がハッとしてピカチュウに視線を向ける。

3 / 4 | |
|


OOPARTS