:家庭教師ヒットマンREBORN!
:沢田綱吉


幼馴染み。私とツナの関係を一言で言い表せばそれに限る。

元々親同士が仲良しのご近所さんで、初めて会った時がどうとかそういうのはまるで覚えていない。
この前ふとそう思って親に聞いてみたら笑われてしまった。貴方達は貴女が私のお腹にいる時からのお友達よと悪戯っぽく。あぁそりゃあ覚えてないはずだ。

それから長い月日が過ぎて私達は今思春期真っ盛りの中学生である。別に反抗期という訳でもなく、いや、ツナはある意味小学生の時から反抗期と言えるかもしれない。ヘソ曲がりというか、何せ理由はダメツナだからだ。
それはさておき、特に何がある訳でもなく私はただ平凡に中学生活の折り返し地点に向かっていた。けれど平凡に時を重ねていたのは私だけで、誰より平凡なはずのツナの思春期は非凡に染まりつつあったようだ。


ねえ、ツナにはたくさんの大切な人ができたね。私以外これと言って仲の良い友達なんていなかったのに、今のツナは大勢の仲間に囲まれている。誰より昔からずっとずっと一緒で、ずっとずっと想っていたのに、もう私の入る隙なんてないね。
私の事は二の次であなたが幸せならそれで良いなんて、そんな綺麗事私は言えない。私だって幸せになりたいし、ずっとツナの隣にいたい。
だからこれは単なる私の自己中心的考えなんだ。どうか気付かないでね。

「皆みんな、大っ嫌いだ」

都合良く転がっていたスポーツ飲料の空き缶を目一杯蹴ってやる。
私からツナを取らないで。ツナが笑いかけるのは私一人で良い。願わくばツナが好きな人も、ツナを好きな人も、私一人が良いと思う私は汚い。すごく汚くて、こんな私をツナが知ったら、君はきっと離れていっちゃう。
だから、どうか気付かないでと一人になると最近の私は途端に同じ事ばかりを考えている。
友達と別れたばかりの帰り道はもう夕陽に染まっている。この暖かみのある優しい色合いと髪の色が似ているのだろうか。何処かツナを思わせるものだから私は夕暮れが結構好きだったりする。

肌寒い風がひとつ小さな砂埃を隣の公園から運んできて、私は短めのスカートを片手で押さえながら立ち止まってやむ無く目を細めた。その時だった。

「雨澪依泉だな」

驚きの声すら出す暇もなかった。突然すぐの背後から聞こえた低い男の声は勿論知らない音で、見開いた目には結局砂埃が入って涙が出そうになる。けれどそんな事に気を回してもいられず、私の口元には何故か布が宛がわれ両腕は後ろ手に拘束されてしまっていた。

まるで何かの映画みたいな展開。
それに沿うように待っていたのは急激な眠気。映画ではお決まりだなぁなんて考える私でも、ここが映画の中じゃない事くらい分かっている。何の抵抗もできない私はそのまま気を失ってしまったのだった。





「――うまくいったな」

耳を塞がれているような遠くの声。意識が戻って最初というより、どうやら私はその声によって意識を取り戻したらしい。ああ何て気分の悪い寝覚めだろう。

そろりと開いた目がそれほど明るくない世界に慣れるには時間はかからなかった。ありがちに工場のような場所を背景に5・6人分の靴が見えてそれを辿っていけば、ゴツイ男が全身を黒に包んで佇んでいるのが見えた。
全く訳が分からない。これは誘拐されたというのだろうか?今いる場所は自分の知らない場所で、足元に感じたコンクリートのひやりとした冷たさに身震いした。

何と手首には手錠が嵌められていて、更にご丁寧な事には胴体がロープでぐるぐる巻きに、柱にくくりつけられているものだからこの場所を離れる事はほぼ不可能な状況だった。
ロープだけでも何とかならないかとやたらに動いてみるも徒労にしかならないようで、見向きもしていない男達のどこかから嘲笑う声が耳に届いた。


「これでボンゴレ10代目も下手に動けまい」
「そもそもあれはただの子供だろう」
「なに、用心するに越した事はない」

私にはとても関係がないような話をしていそうなので男達の会話を何となく耳に入れて、その傍ら考える。誘拐なんて一体何の為に?

「…どうして私が?」

もういっその事、理由なんて何でも良いから早く帰りたい。
助けてよ誰か――、ツナ。

「沢田綱吉と言ったか。何せバックに付いているものが侮れない」

聞こえた固有名詞はちょうど私が頭に描いていた人物と同じで、間の抜けた反射的な声を発したけれどそれは派手な物音と悲鳴に掻き消された。最初に喋った男のものと同じ声だ。

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